2008/08/28 09:24
図1 LED街路灯を設置した場所。写真中央部から左側に向かってポール状のLED街路灯が見える
図2 高所から照らすLED街路灯の照射面。黒いツブツブに見える個所が白色LED
図4 LED街路灯を設置したエリアは水際まで人が行けるようになっている(柵があるので水に触れることはできないが)。船着場もある。
「大阪に設置されたLED街路灯が,かなりの省エネ効果を上げている」
取材でいつもお世話になるLED業界のある方から突然,連絡がありました。聞けば,LED街路灯は京セラドームに隣接する木津川沿いの再開発地区に2008年3月に設置されており,水銀ランプを使う一般的な街路灯に比べると1カ月の電気代が1/10程度で済んでいるとか。LED照明の実例についてもっと情報を集めたいと思っていた私は,早速,該当地区を管轄する大阪府西大阪治水事務所に問い合わせてみました。同事務所によれば,確かに電気代を安く抑えているとのこと。そもそもどのようなキッカケでLED街路灯を設置したのか,そして何より効果の詳細を知りたく,先方に取材のアポを取りました。
7月某日,快く取材に応じていただいたのは,同事務所の工務課で水都再生グループに所属する副主査の村上圭介氏。同氏によれば,LED街路灯を設置するキッカケは突然やってきたそうです。「大阪府のベンチャー支援活動の中で新技術を発掘・利用するという話があり,そこでLED照明を使うことが決まりました。それを,うちの水都再生グループで活用することになったわけです」(同氏)。水都再生グループではちょうど,木津川の堤防整備で新たな取り組みを進めるところで,そこの夜間照明としてLEDを街路灯に使うことになったそうです。
木津川の整備では,人を近づけないような高い堤防が河川のギリギリまで迫るといったこれまでの考え方ではなく,川面の近くに人が近づけるようにしています。最近,目にする機会が増えてきた,堤防の内側に川面に沿って細長い公園があるような感じです。木津川の整備では船着場も設けており,LED街路灯はそこの夜間照明を担います。
西大阪治水事務所は,もともと高潮などから大阪の街を守るために堤防や水門を設置・管理してきました。その事業は今も続いているのですが,最近は「水と親しむ」ための河川管理も行っており,水都再生グループはその役目を担当しています。大阪府では大阪の中心部を囲むように流れる,堂島川や土佐堀川といった旧淀川,東横堀川,道頓堀川,木津川などの河川で水と親しめるような整備を進めていて,LED街路灯が入った木津川の整備もその一環だそうです。
設置したLED街路灯は全部で22台。高所から照らす街路灯が9台,低所を照らす足元灯が13台あります。発光色には,前者が昼光色,後者が電球色を使っています。照度は39lx(ルクス)とのこと。このうち前者は,高いところから路面を広く照らすためにハイパワーが必要で,1台当たり白色LEDを36個搭載しています。搭載した白色LEDは,米Philips Lumileds Lighting Co.の高出力品「K2」。「LED街路灯を開発・製造した3フォースによれば,K2は発熱量が少ない上に放熱性が高く,白色LEDの寿命を延ばせることから採用したと聞いています」(村上氏)。LED街路灯の寿命は少なくとも10年とみており,「今のところは光源の交換を予定していません」(同氏)と,メンテナンスも楽とのこと。
ひと月の電気代について聞いてみたところ,5月が2867円,6月が2723円。ほぼ試算通りの効果を上げているそうです。夜の時間が長くなる冬場でも,約3800円で収まると試算しています。設置に当たり,今回のLED街路灯と同じ照度を水銀ランプで得る場合を試算したところ,電気代はLEDを使う場合の10倍かかるという結果だったそうです。
LED照明はまだLEDそのものが高いため,初期費用が高いといわれます。それについて村上氏は,「照明器具全体にしてしまうと,水銀ランプを使う場合と大きな差はなかった」と言います。LED街路灯は太陽電池や蓄電池などの付帯設備を伴うことが多く,初期費用は高くなりがちですが,今回は水銀ランプの街路灯と同じく通常の電力インフラを使うので両者の差は出にくかったのかもしれません。
それにしても,なぜ太陽電池と組み合わせなかったのか,疑問を抱きました。設置場所はもともと水際であり,照明はないので電力インフラはありません。LEDそのものは1個ならば4V弱,10個直列にしても40V程度と比較的低い電圧で駆動できます。昼間に太陽電池が発電する電力を蓄電池にため,夜間に蓄電池から電力をLEDに供給するといった使い方に合っていると思われます。
それについて村上氏は,「検討段階では太陽電池の利用もありましたが,結局見送りました」とのこと。見送った理由は大きく二つあったそうです。一つは,仮に太陽電池を搭載するとしても,バックアップ用電源として電力インフラが必要になること。電力インフラを使う,使わないを問わず,街路灯設置に合わせて電力インフラを設けることには変わらなかった,ということです。そしてもう一つは,太陽電池を取り付けると街路灯がいたずらの被害に遭ってしまうこと。石などを投げられて太陽電池が割れることを心配したと言います。今回整備したエリアでは,整備する以前の堤防に数多くの落書きがあり,いたずらの被害に遭わないためにも壊れる可能性があるものを避けたかったそうです。
LED街路灯は「いいことずくめだった」(村上氏)のですが,他の場所にもLED街路灯を設置する計画は今のところありません。少し残念な気がしますが,今回の事例を多くの人々が目にし,その効果についての情報が広まれば,設置例が増えるかもしれません。今回のLED街路灯は,地下鉄長堀鶴見緑地線のドーム前千代崎駅のすぐ近くで,木津川の船着場である大阪ドーム千代崎港に隣接したエリアにあります。2009年3月20日には,阪神西大阪線と近鉄奈良線をつなぐ阪神なんば線が開通し,近くにドーム前という駅も生まれます。機会がある方は,ぜひ見に行かれたらいかがでしょうか。皆さんの印象を,ぜひ教えていただきたいと思っております。
西大阪治水事務所への取材後,LED街路灯を見に行ったのですが,あいにく昼間だったので点灯しているところを見ることはできませんでした。
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