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社説:北京五輪閉幕 中国は「和」の文字の体現を

 北京五輪を終えた中国は、大国としての地位を確立した。最多の金メダルは、興隆する国力の象徴だ。

 四川大地震の衝撃を乗り越えて、「鳥の巣」メーンスタジアムで繰り広げられた開会式の歴史絵巻は、「大中華復興」を成し遂げたという自負心を誇示するものだった。

 圧倒的な人の数、訓練を積み重ねた技量。これをしのぐイベントを実行できる国はほかに見あたらない。

 この自信が中国を、開かれた大国に変えることを期待する。

 文革時代の鎖国状態はもとより、改革開放時代の今も、中国の政治や社会は透明度が高いとはいえない。

 だが、これからは「中国の国情」「発展途上にある大国」などの言い訳は似合わなくなった。

 国家の威信をかけたナショナリズム五輪だった。この点で「第2のベルリン五輪」という見方がある。「完ぺきな美」を追求するという国家権力の論理が、開会式映像のコンピューターグラフィックス偽装や愛国歌少女の口パク偽装などにつながった。

 過剰な警備がまかりとおり、観衆の「中国・加油(がんばれ)」というあまりにも偏った叫びは、排外的な過激ささえ感じさせた。

 国際世論が中国に期待したのは、偏狭なナショナリズムではなく、平和の祭典を主催するにふさわしい大国のソフトパワーだった。チベットなどの少数民族問題、環境破壊問題、人権抑圧問題などを知恵と対話で解決する寛容な国の姿だ。

 しかし力のごり押しは、世界各地で起きた聖火リレー攻防戦で露骨だった。途中でダライ・ラマとの対話に応じていなければ、北京五輪は中国脅威論を高める結果で終わっていたかもしれない。

 祭りが終わり、今後、高揚した中国人のナショナリズムはどこに向かうのだろうか。物価が上昇を続けている。株価は下がり続けている。全国各地で住民と警察の衝突が増えている。経済が低迷すると沈黙していた社会の不満に火がつく。

 開会式のマスゲームで「和」の文字が浮かび上がった。胡錦濤政権の目指す「調和社会」の理想を表したものだ。

 経済成長を維持するには富の不均衡を改め中産階層を育てて内需を高めなければならない。それによって「和」が実現する。しかし富と権力を独占する権益集団にはすでに共産党幹部が多数組み込まれている。改革は身内からの激しい抵抗を受ける。だからといって改革開放30年の今年、貧富の格差や権力独占の是正を目指す政治体制改革を避けることはできない。五輪防衛を理由にして報道を規制し警備を優先させてきたが、方向転換を急がなくてはならない。

 中国が大国にふさわしい調和社会に向けて踏み出す時が、国際社会から中国脅威論が消える時である。

毎日新聞 2008年8月25日 東京朝刊

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