17日間に及んだ北京五輪は中国の様々な姿を世界に映し出した。金メダル世界一に輝いたことは「経済大国」として国力を増してきたことを反映しているのかもしれない。だが、人権問題、報道の自由、民主化などの面では異質さが目立った。
世界は急速に台頭する中国にどう向き合えばいいのか。五輪はこうした疑問も投げ掛けた。中国は世界の視線が厳しいことを十分に自覚し、国際社会と協調していく「責任ある大国」の道を歩むよう期待したい。
警戒が必要な経済運営
北京五輪後、中国経済は急減速するのではないか。こうした懸念がささやかれている。1964年の東京五輪、88年のソウル五輪の後、日本、韓国はともにポスト五輪不況に見舞われたからだ。
中国国家発展改革委員会のエコノミストは「経済成長の基調は変わっておらず、五輪後も不況は来ない」と指摘する。日韓両国では五輪開催当時、東京、ソウルがそれぞれ国内総生産(GDP)の2割以上を占めていた。北京の場合、中国全体のGDPに占める割合は約4%にすぎないという事情もあるのだろう。
中国の実質成長率は2007年が11.9%で、5年連続2ケタ成長を記録した。今年1―6月期は10.4%とやや減速している。サブプライムローン問題による対米輸出の鈍化に加え、北京周辺の大気浄化のため建設工事や工場の操業を一時停止した影響などもあって、7―9月期はさらに減速する可能性もある。
国際通貨基金(IMF)は中国の成長率を08年9.7%、09年9.8%と予測している。依然として高めの成長が続く見通しだが、経済は新たな調整局面を迎えている。
8日の北京五輪開幕当日、株式相場が急落したのが象徴的だ。昨年10月に最高値を更新、6000を突破した上海総合指数は前日比4.5%安の2605.719と1年7カ月ぶりの安値となった。その後も輸出関連企業の株が下げ、輸出主導型成長の限界が浮き彫りになった。
当面の懸念材料はインフレ圧力だろう。1―6月期の消費者物価指数(CPI)は前年同期比7.9%の上昇。7月は6.3%の上昇だったが、エネルギー料金の年内再引き上げも予想され、政府目標の「4.8%以内」の達成は極めて難しい。
中国は今年、改革・開放30周年を迎えた。GDPでドイツを超え、米国、日本に次ぐ世界3位に浮上する公算が大きい。これだけの経済大国に急成長したのは、輸出と投資の両輪がけん引してきたからだ。
しかし、世界的な景気減速と人民元高、人件費の上昇などが重なり、貿易黒字は縮小している。過熱気味だった不動産市況もここにきて調整色を強めている。原材料コストの上昇で固定資産投資(設備投資や建設投資の合計)は減少しかねない。
中国がさらに経済発展するには、五輪を機に従来の成長モデルから転換しなければならない。個人消費など内需拡大に向けた構造改革が急務だ。二酸化炭素(CO2)排出量で米国を抜き世界一になるだけに、環境や省エネに配慮した成長戦略もこれまで以上に求められる。
「北京五輪の成功は、中国人民と世界各国の人々がともに努力した結果だ。中国人民と世界の人々の相互理解、友情が深められるだろう」
胡錦濤国家主席は24日、閉会式出席のため北京に集まったブラウン英首相はじめ各国首脳らを前に、国際協調の重要性を訴えた。
人権改善と国際協調を
五輪史上最多の204の国と地域が参加し、陸上や競泳で世界新記録が続出した北京五輪は歴史に残るだろう。壮大な仕掛けの開会式や閉会式で世界を驚かせたのは、次期開催国を意識したのだろうか。清の時代の19世紀のアヘン戦争で大英帝国に敗れた中国が「中華復興」の象徴にしたかったのかもしれない。
だが、開会式での演出は国際的な人権感覚とは明らかにずれていた。革命歌曲を歌った少女(9)の「口パク」はとがめるまでもないが、歌声が別の少女(7)だった点に違和感を覚えた人は少なくない。
「中国の56の民族の代表」と紹介され登場した民族衣装姿の子供たちの多くが人口9割以上を占める漢族だった。チベットでの人権や少数民族問題が関心を集めている中で配慮に欠けてはいなかったか。
北京では五輪期間中、3カ所の公園でデモを許可するとしていたが、認められた例はなく、デモを申請した市民が「労働再訓練」を命じられたという。中国政府は五輪に関する報道の自由を約束したが、外国人記者の取材には妨害もあった。
基本的人権も守れないようでは、五輪の精神に反するだけでなく、世界から信用されない。中国は人権の尊重や集会、言論、報道の自由、民主化などでも国際協調へと大きく舵(かじ)を切らなければならない。