【北京・三木陽介】北京五輪の競技会場には、チケットを不正転売する多くのダフ屋がいるが、中国では、こんなところにもダフ屋が出没する。
北京市北部の総合病院。午後5時。正門前に新聞紙を敷いて男女5人が座っている。何をしているのか尋ねると、みな「家族が病気なんだ」と言い、それ以外は何を聞いても口を閉ざした。
診察券のダフ屋だ。翌朝、もう一度行ってみると、1階の八つの診療科窓口には数十メートルの患者の列ができている。押し合いへし合いで、「おれが先だ」「助けて」と悲鳴や怒号が飛び交う。前夜の5人組は片隅でニヤニヤ。カモを狙っているのだろう。
中国では公的医療保険制度が確立しておらず、治療費は各自が負担する。まず10元(約150円)前後の診察券を買い、診察後、診察料と薬代を支払う。診察券の枚数が限られているため、医師が少ない科や人気医師の場合、これを逆手に取り高く売ろうとするダフ屋がいるのだ。コンサートやスポーツのチケットのダフ屋「票販子(ピャオファンズ)」に対し、「号販子(ハオファンズ)」と呼ばれる。
あるタクシー運転手(46)は頭痛を訴えた妻を病院に連れて行った。受付は午前4時には既に長蛇の列。診察券は買えなかった。そこへ男が近寄ってきて「50元(約750円)でどうだ」と言われた。
天津市の30代の男性は家族が高熱を出し、北京の有名病院に行った。2晩並んだが診察券は入手できない。疲れ切ったところに、号販子が10倍以上の値段をふっかけてきた。
警察は北京五輪を機に私服警察官を配置するなど、号販子の取り締まりを強化したが、「五輪期間中だけ」との声も聞こえる。病院側もようやく電話予約制や身分証の提示など独自の対策に乗り出した。
だが、不信感は根深い。別のタクシー運転手は「いずれ、号販子と手を組んでもうけようとする悪い医者が出てくるよ」と言った。
毎日新聞 2008年8月23日 13時11分(最終更新 8月23日 13時23分)