厚生労働省の独立行政法人(独法)である雇用・能力開発機構の存廃議論が政府内で熱を帯びている。茂木敏充行政改革相が大手術が必要との考えを述べたのがきっかけだ。
一般に、独法が持っている施設には、その必要性が疑わしいものが少なくない。仕事の内容も民間企業や地方自治体へ移しても差し支えないものが多々ある。
雇用機構は無駄な施設や仕事を数多く抱えている独法の典型だ。首相は厚労相や旧労働官僚の抵抗を排し、機構が抱えている無駄の排除に早急に着手すべきである。また機構の大胆なリストラを契機に、遅々として進んでいない独法全体の改革を加速させる必要がある。
機構は京都府の関西文化学術研究都市に「私のしごと館」と称する広大な施設を保有している。若者に職業体験をしてもらう場との位置づけだが、機構の組織全体にも職員1人ひとりにもコスト意識が乏しく、有効に活用されているとはいえない。同じような役割の民間施設と比べても非効率さが際立つ。こうした実態が報じられ、しごと館の廃止論が政府内で高まった。
約580億円の建設費は労働保険特別会計の事業主負担から出したものだ。毎年の運営費赤字も同会計で穴埋めしている。厚労省では厚生年金や国民年金の保険料を管理している特別会計の資金を社会保険庁がさんざん無駄遣いしていた。旧労働官僚による特別会計の無駄も似たり寄ったりの面があるわけだ。
コスト意識が低いのは、しごと館にかぎらない。職業能力開発大学校や全国にくまなく置いている職業能力開発促進センターが実施する職業訓練も、工夫すれば民間でできるだろう。職業訓練の大切さはいうまでもないが、これらの施設を通じて機構が提供している離職者向け訓練には、すでに民間事業者に委託しているものがある。機構が施設を保有し続ける必要性は小さいといえる。
厚労省は識者検討会で機構の存廃を議論している。これとは別に、しごと館に関する検討会も設ける念の入れようだ。だが省内の検討会に委ねていては甘い結論が出る懸念がある。いま必要なのは政治主導で売却や廃止を決断することである。
独法改革は国土交通省の都市再生機構などの存廃問題も結論を先送りしたままだ。文部科学省の日本学生支援機構の有利子奨学金なども民間金融機関で代替できる。官僚の天下りと補助金の無駄遣いを減らし、施設売却で「埋蔵金」を発掘できる独法改革には一石三鳥の効果がある。