●枯れた趣すら感じる基調講演
通算で23回目となるIDFがサンフランシスコで開幕した。2005年秋の第17回以来の8月開催となった今回だが、キーノートのトップバッターとしてCraig Barrett会長が登壇するのも2005年春のIDF以来のことだ。その2カ月後、Barrett氏はCEO職をPaul Otellini社長へ譲った。ひょっとするとBarrett会長がIDFのキーノートに登壇するのは、これが最後になるのかもしれない。 そう思ってしまうくらい、Barrett会長のキーノートは「枯れた」ものだった。教育や途上国の経済支援、医療さらには省エネルギーによる地球温暖化防止など、社会貢献色の強いテーマであることに加えて、スピーチに自社の製品がほとんど登場しない。さすがにIntelが推進するClassmate PC(製品であっても「商品」なのかは微妙なところだが)などについて触れられることはあったものの、スピーチのフォーカスは明らかに製品の紹介ではない。おそらく露出の時間から言ったら、カーネギーメロン大学のJohnny Chung Lee博士のプロジェクトWiiの紹介(WiiリモコンとPCを組み合わせてお手軽デジタルホワイトボードとして利用するWiimote Whiteboard)の時に使われたWiiリモコンの方が、圧倒的に長かっただろう。 CEO職を辞してからのBarrett会長は、以前にも増して社会貢献、中でも教育問題に積極的に取り組んできている。アジアやアフリカの途上国を実際に訪問することも多く、ウェルカムスピーチを担当し、Barrett会長を壇上に呼び上げたPat Gelsinger副社長もその多忙ぶりを「Craigを探せ!」と揶揄したほどだ。 成功した経営者が第一線から退き、社会貢献に活動の比重を移すというのは珍しいことではない。先頃引退したMicrosoftのBill Gates会長も、自ら設立したBill & Melinda Gates財団による社会貢献活動を日常の営みとしている。それが高潔な志であることを否定する人はいないだろう。 ●新しい話題はあまり多くない
過去にも、IDFのキーノートで社会貢献あるいは人類への貢献に関する話題が取り上げられたことはあった。が、たいていの場合そこには、Intelの製品がどう関わっていくのか、という視点が見られた。それが希薄な今回は、どうも調子が狂う。なんというか、雰囲気が和やかすぎるのである。IT業界の覇者となった後も、1日24時間しかない時間をPCとTVで奪い合うことになる、と家電業界に挑戦状を叩きつけたAndy Grove元CEO(現Senior Advisor)のアグレッシブさは今の時代にはそぐわないのかもしれないが、ちょっとほんわかし過ぎているような気がしてしまう。 今回のIDFにおける大きな話題の1つは、年内に出荷を開始するNehalemファミリのプロセッサだが、新しい話はそれほど多くない。目新しいのはパワーマネージメント関連の情報が公開されたくらいで、発売直近のIDFであるにもかかわらず、具体的な性能の指標、あるいは動作クロックといった話題はない。開発コード名を含め、プラットフォーム関連の情報が若干新しくなっているものの、割と淡々と話が進められている印象だ。このNehalemファミリより先に登場するハズの、Penrynファミリで未発表のプロセッサ(低電圧版や超低電圧版)についても、具体的な話は少ない。 サブプライムローン問題に端を発する経済の失速もあり、ライバルおよび同業各社が業績に苦しむなか、現在もIntelは好業績を続けている。最大のライバルであるAMDは、GPU分野において最新のRadeon HD 48x0シリーズが好調なものの、Intelと直接競合するCPU分野では一時ほどの勢いが見られない。ブチ上げたものの、具体的にどのような施策なのかハッキリしないAsset Light戦略も含め、同社どんな次の一手を打ってくるのか見守るばかり、という状況だ。Intelがちょっと緩んだとしても無理はないのだろうが、すべてがIntelのペースで進んでは面白みに欠ける。変な話だが、AMDに元気がないと、IDFがつまらない、ということは言えるかもしれない。 □関連記事 (2008年8月22日) [Reported by 元麻布春男]
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