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産科医に無罪判決 帝王切開での女性死亡事故 福島地裁

2008年8月20日13時47分

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写真福島地裁に入る加藤克彦被告=20日午前9時48分、福島市花園町、戸村登撮影

 福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性(当時29)が死亡した医療事故で、福島地裁(鈴木信行裁判長)は20日、業務上過失致死と医師法違反罪に問われた医師、加藤克彦被告(40)に無罪(求刑禁固1年、罰金10万円)を言い渡した。事件は、治療における医師の判断、手術法の選択にまで捜査当局が踏み込んだものとして注目されていた。

 判決では、加藤医師が女性の癒着胎盤をはがした判断と行為について「胎盤をはがさずに子宮摘出に移れば、大量出血は回避できた」としながらも、「胎盤をはがしはじめたら、継続するのが標準的医療。はがすのを中止しなかった場合でも具体的な危険性は証明されていない」と述べ、過失にあたらないとした。異状死の場合、死亡後24時間以内に警察へ届けなければならない医師法違反にも問えないとした。

 判決によると、加藤医師は、福島県大熊町にある大野病院の産婦人科医で、手術は04年12月に行われ、女性にとって第2子となる赤ちゃんを帝王切開手術でとりあげた。女性は第1子も帝王切開で出産していた。

 胎盤は通常、お産後に、自然にはがれる。しかし、女性の場合、胎盤が子宮から離れない「癒着胎盤」で、かつ胎盤が産道につながる部分をふさいでいた。胎盤を手ではがそうとしてできなかった加藤医師は、手術用のはさみを使ってはがしたが、大量出血。輸血しながら子宮の摘出手術に切り替えたが、女性は4時間半後に死亡した。

 検察側は鑑定などから女性が前回帝王切開した時の傷跡に胎盤が接触しており、加藤医師が事前の診断で癒着胎盤を予見できたと主張していたが、判決では、弁護側の主張通り、「胎盤が前回帝王切開した傷跡に(接触して)なかった」と認定した。

 鈴木裁判長は「(検察側が証拠とする)一部の医学書と齟齬(そご)があるために、臨床現場で迅速な判断ができないのなら、医療現場に混乱を与える」と検察側の立証の甘さを指摘した。

 検察側は、加藤医師の過失について、「胎盤を無理にはがせば大量出血すると予見できたのに、子宮摘出に移らず、はさみで漫然とはがし続けた」と指摘。一方、弁護側は「胎盤をはがせば通常、血は止まる。はさみを使っても出血量は増えておらず、被告の行為は臨床医学の水準に反していない」と無罪を主張していた。(高津祐典)

     ◇

 〈福島県立大野病院事件〉 04年12月17日、帝王切開手術を受けた女性(当時29)が死亡。外部の専門家による県の医療事故調査委員会が、執刀医の判断の誤りを認める報告書を作成したのをきっかけに、福島県警が06年2月に医師を逮捕した。医療界は「医療全体の萎縮(いしゅく)を招く」として強く反発していた。

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