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グルジア紛争―米ロの対立を懸念する

 まるで冷戦時代に逆戻りしたかのように、米国とロシアがにらみ合う。

 グルジア紛争が始まって1週間あまり。フランスが和平案を仲介し、圧倒的な軍事力でグルジア領内に兵を進めたロシアも撤収の動きを見せ始めた。

 だが、ブッシュ米政権はロシア非難のトーンを上げ、「人道支援」を掲げて米軍の輸送機をグルジアへ派遣した。軍事介入の可能性は否定しているものの、ロシア軍の動きを牽制(けんせい)しようとの狙いは明らかだ。

 黒海とカスピ海にはさまれた旧ソ連・カフカス地方の局地紛争が、米国を巻き込んでエスカレートしている。

 冷戦後、米ロ両国がここまで非難の応酬を繰り広げるのは異常だ。このまま事態が悪化すれば、世界がこうむる打撃は計り知れない。

 そうした事態を防ぐため、ロシアは和平案を履行しなければならない。まずは、紛争前に展開していた地点まですみやかに部隊を撤収すべきだ。

 なぜ、こんなことになったのか。

 今回の紛争は、グルジア軍が南オセチア自治州の分離勢力を攻撃したことが発端だったようだ。ロシアの平和維持部隊や自治州の住民に多数の犠牲者が出た、とロシアは主張している。

 だが、グルジアの港湾や都市まで空爆するなど、ロシア軍の対応はどうみても過剰のそしりは免れまい。撤兵の動きの鈍さも、グルジア親米政権の追い落としを画策しているのではないかと勘ぐられても仕方なかろう。

 グルジアも冷静になる必要がある。サアカシュビリ大統領は人道支援の米軍が「空港や港湾も管理する」と発言して、米側があわてて否定している。これ以上ロシアを刺激するよりも、停戦実現を最優先すべきだ。

 旧ソ連のグルジアは03年の「バラ革命」以後、親米路線に傾斜した。米国は軍事顧問団を駐在させるなどして、てこ入れしてきた。北大西洋条約機構(NATO)入りの希望も後押ししている。しかし、ここはグルジアに自制を働きかけるべきだ。

 カフカス地方は、ロシアにとっては自らの「勢力圏」の一部という意識が強い。そこに米国の影響力が増せば、ロシアの不安をかきたてないではおかない。その危うさを、今回の事態は映し出している。

 同じように「勢力圏」だったバルト3国やウクライナ、さらにポーランドまでが、グルジアとの連帯を表明している。米ロはミサイル防衛(MD)の欧州配備でも対立している。このままでは、冷戦後に築いてきた欧州の安定が損なわれかねない。

 欧州連合(EU)が停戦監視団を派遣する意向だ。欧州安保協力機構(OSCE)のメカニズムも使えるはずだ。停戦の実現と紛争の沈静化を急がねばならない。

政治家の世襲―政党が自制してみては

 閣僚17人のうち13人を入れ替え、「大幅」といわれた先の内閣改造でも、変わらなかったことがある。世襲議員の多さである。

 福田首相を含む内閣の18人中、国会議員を経験した親族から地盤を引き継ぐ世襲議員は、半数の9人。この数字は、改造前と同じだ。

 今回初入閣した4人の自民党議員の中では、林芳正防衛相、林幹雄国家公安委員長がこれにあてはまる。

 衆議院全体でみると、自民党議員の約3分の1が世襲だ。自民党の専売特許というわけではなく、民主党議員の約1割も世襲だ。

 とはいえ、自民党の多さはやはり際だっている。民主党の「次の内閣」では、親族の地盤を継いでいるのは小沢一郎代表ぐらいだ。

 もちろん、世襲候補も有権者の支持がなければ当選しないし、2世、3世だから政治家としての資質が劣る、とは言えない。

 問題なのは、政治の世界に新しい人材が入りにくくなることだ。

 もともと、国政の場に新たに参入するには、高いハードルがある。公務員や会社員が立候補するには、職を捨てる覚悟がいるし、資金も必要だ。

 世襲候補ならば、当選に欠かせないと言われる「地盤、看板、カバン」が労せずして手に入る。前回05年の衆院選を見ても、世襲候補の当選率は80%を超えている。非世襲の候補とはスタートラインから違っているのだ。

 こんな現実を見れば、いくら志を持つ有為な人物でも、政界へのチャレンジに二の足を踏んでしまうのは無理もない。その結果、政治がますます一部の家の職業となってしまう。

 同じような環境で育ったひと握りの人たちで政治が運営されれば、国政に多様な利害や価値観が反映されにくくなる。新陳代謝がなければ、政治の質が下がっていくのは当然だ。

 こうした悪循環は、どこかで断ち切る必要がある。

 民主党は、国会議員経験者の配偶者や子どもが、本人と同じ選挙区から立候補するのを制限できないか、党内で検討している。

 与党と合意できれば公職選挙法を改正する考えだが、法制化が難しいようであれば、党の内規とすることも選択肢だという。

 世襲の制限は、首長の多選禁止と同じように、立候補の自由や職業選択の自由に触れかねない側面もある。法制化には議論もあろう。だが、2大政党の一翼が党の方針として明確に実行できれば、日本の政治風土を改めるきっかけになるのは間違いない。

 現状をこのまま放置するのか、改めるのか。政党の姿勢はもちろんだが、政治家を選ぶ有権者の見識も問われる問題である。

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