「公の秩序に反する。母子関係を認めることはできない」――。 タレントの向井亜紀さんと元プロレスラーの高田延彦さん夫妻が米国人女性に代理出産を依頼し、双子の男児が生まれたが、最高裁は二〇〇七年三月、夫妻との親子関係を認めない決定を下した。日本の法律では出産した女性が母親であり、〈その子を懐胎、出産していない女性との間には、その女性が卵子を提供した場合でも、母子関係の成立を認めることができない〉と、出生届を受理すべきとした東京高裁の決定(〇六年九月)を覆した。 〇七年四月、向井さんは記者会見を開き、「がっかりしたし、怒りも覚えた。子宮の働きを持たない女性を救う道はないのか」と語った。夫妻は出生届の提出を断念し、米国籍のまま子供を育てていくことにした。この場合、生まれた子供が日本国籍を取得する方法は、あるとすれば一つ。代理母を子供の母親として出生届を提出した後、子供を夫妻に特別養子縁組させる方法だ。しかし、代理出産の契約では、代理母に親としての義務を一切負わせないと定めることになっている。だから、一時的にではあっても子供の親権が代理母に移るこの方法は、現実には不可能だ。 夫妻と子供の間に親子関係を認めないという最高裁の判断に、専門家の意見は分かれた。早稲田大学大学院法務研究科の棚村政行教授は、〈民法が想定しない新しい問題を、「基本理念」という旧態依然とした理屈で判断してしまった〉(朝日新聞〇七年三月二四日付)とする。一方、水野紀子東北大学教授は〈妥当だ。産んだ女性を母とするのが極めて自然で、代理出産で生まれた子は養子縁組をして、実子同様に育てればいいのではないか〉(読売新聞〇七年四月二九日付)と反論する。 代理出産とは、子供ができない、産めない状態を助ける生殖補助医療のひとつ。向井さんの代理出産を仲介した「卵子提供・代理母出産情報センター」(東京)は一九九一年から仲介を始め、約七五人の子供が生まれている。鷲見侑紀代表は、母子とも無事な保証はなく、想定外の事態があるため、代理出産を積極的には薦めていないが、〈不妊夫婦に「代理出産だけが頼り」と泣かれ、やむを得ずドアを狭く開けて仲介を続けているのが現状〉(読売新聞〇七年四月二九日付)という。 なお、最高裁は今回の決定で、代理出産という民法の想定外の事態について、〈医療法制、親子法制の両面にわたる検討が必要になると考えられ、立法による速やかな対応が強く望まれる〉と、今後の議論を促した。
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