毎日新聞社は、英文サイト「毎日デイリーニューズ」(MDN)上のコラム「WaiWai」に不適切な記事が掲載された問題で、社内調査を続けてきました。関係者の事情聴取などで判明した検証結果と、調査をした特別チームの原因分析を報告するとともに、有識者による「開かれた新聞」委員会の委員の見解を掲載します。
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「WaiWai」は、毎日新聞が発行していた英字紙「毎日デイリーニューズ」のコラムの一つで、1989年10月に連載をスタートした。硬いニュースだけでなく、「軟らかい読み物」も扱おうと、国内の週刊誌や月刊誌の記事を引用しながら、日本の社会や風俗の一端を面白く紹介する狙いだった。
英字紙の時代は、毎週日曜日に1ページを使って記事6本と雑誌の見出しだけを紹介するスタイルが定着した。英文毎日編集部の外国人記者や社外の外国人ライター3〜5人が執筆。取り上げる雑誌も外国人が中心となって選択していた。執筆した外国人ライターの一人は「現在の日本はこうなっている、ということを描いていて、外国人記者の間で話題になっていた」と振り返る。
今回、懲戒休職3カ月の処分を受けた担当の外国人記者は、96年10月から同編集部で働くようになり、「WaiWai」の執筆に加わるようになった。
01年3月末、渡辺良行常務が総合メディア事業局長だった時にMDNは休刊となり翌月からウェブ上のみでの掲載となった。当時の英文毎日編集部長(故人)の編集方針で、紙面と同じ内容をネットで掲載することになり、「WaiWai」も継続された。
英字紙時代の最後は外国人15人、日本人3人の計18人のスタッフがいたが、ウェブになってからは外国人5人、日本人3人の体制に縮小、のちに日本人は2人になった。「WaiWai」の執筆は、実質的に担当記者1人になった。
担当記者は、ニュース翻訳の傍ら、1日1本のペースで「WaiWai」の記事(600語程度)を更新し、雑誌の選択も1人でした。途中から、英字紙時代の「WaiWai」に記事を書いていた外部の外国人ライター1人も執筆に加わり、担当記者が週7本、外部ライターが週1本のペースで記事を更新。その中に、性風俗などに関し、掲載すべきでない記事が多く含まれていた。
担当記者は日本語を理解するバイリンガル。政治ニュースから話題物まで、硬軟双方をこなせる翻訳能力の高さを周辺は評価していた。
05年4月に英文毎日編集部長の下で、MDNの編集長に就任する。編集長は社の職制上の肩書ではないが、担当記者はMDN全般を統括する立場となった。名刺には「毎日デイリーニューズ編集長」と表記した。
当時デジタルメディア局長だった長谷川篤取締役デジタルメディア担当は「外国人スタッフのインセンティブ(やる気)向上のために抜てきした。非常に社交的で意欲があり、スタッフの中で最もよく仕事をしていた」と話す。
一方で、担当記者が性的な話題をおもしろがることを心配する声もあった。
担当記者は常にMDNに関心が集まることを意識していた。「母国での就職難のため来日した。仕事を失うことに恐怖感があり、MDNを閉鎖する言い訳を誰にも与えたくない」とも考えていたという。「性的な話題を取り上げるとユーザーの反応がよかったので、そういう話題を取り上げた」とも述べている。
また、英字紙時代のMDN読者は、主に日本在住の外国人で、「WaiWai」に利用された雑誌がどのようなものか、あるいは毎日新聞がどのような新聞かある程度分かっている人々だった。ウェブ化によって、アクセスの60〜70%が北米など海外になり、日本の事情を知らない人が読者になったが、担当記者は、記事内容について特に配慮することはなかった。
担当記者は、正確さが問われるニュース記事と「WaiWai」とは別の扱いと考えていた。このため、紙面でもサイト上でも「雑誌記事の翻訳で、表現やその内容には責任を負いません。記事の正確さについても保証しません」との趣旨の断り書きを英文で載せていた。
しかし、「ネット上では毎日新聞の記事と区別しない人がいたので、毎日にとってよくないかもしれないと思っていた」と振り返る。
一方、著作権について、担当記者は知識も理解も十分ではなかった。
「WaiWai」の執筆に加わった当初、ベテランの外国人ライターから「我々がやっている引用は許容範囲だ。単なる翻訳でなく、解説や説明も入れているから」と言われ、十分に検討しないまま大量の翻訳を繰り返していた。読者を引き付けようとして、元の雑誌記事にない個人的な解釈を盛り込むケースもあった。
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