論壇誌『論座』(朝日新聞社)が、9月1日発売の10月号で13年の歴史に幕を下ろす。朝日新聞社全体の不採算部門見直しの一環らしい。最近は、貧困問題などで議論をリードしてきただけに、休刊を惜しむ声は多い。『論座』の内容は、朝日新聞本紙に論壇系の記事を増やすといった方向で、引き継ぐようだ。【鈴木英生】
『論座』は1995年3月の創刊で、「イデオロギーではなく実証的な議論を重んじる」(薬師寺克行編集長)内容で支持された。印刷部数2万部は論壇誌の中でも少なめ。最近は実売が1万部を切ることもあった。
ただし、部数の不振は直接の休刊理由ではないらしい。この種の雑誌の採算ラインは実売5万~6万部とされるが、既に多くの雑誌が割り込んでいる。論壇誌には、社の姿勢を示す看板や単行本筆者の開拓といった役割もあり、『論座』も「完売しても赤字だが、それでも出す意義があるとされてきた」(関係者)。
今回の休刊を、薬師寺編集長は「新聞業界全体が右肩上がりとは言えない状況下で、論壇的な内容の新しい伝え方を模索しようとした結果だ」と語る。関係者によれば、朝日新聞社内では、新聞本紙に論壇的な内容を含む別刷りを折り込むといった形で、『論座』を引き継ぐことも検討されているらしい。
『論座』は、論争的な側面も強い雑誌だった。保守系論壇誌の「過激化」や若者の「右傾化」が叫ばれた06年ごろは、当時の大島信三『正論』編集長(06年3月号)らが登場。06年2月号では、読売新聞の渡辺恒雄主筆が、若宮啓文・朝日新聞論説主幹(当時)と対談し、「靖国批判」で一致した。
若手論者の起用にも積極的だった。犯罪や治安問題の論客、芹沢一也氏や国家論の萱野稔人氏らが、『論座』で知られるようになった。「『丸山眞男』をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争。」(07年1月号)でデビューしたフリーライター、赤木智弘氏も、こうした若手の一人。過激なタイトルで論争を巻き起こし、格差論に一石を投じた。
中島岳志・北大准教授も、「過激化する保守」批判と若手論者登用という二つの路線の交点で、論壇に本格デビューした。中島准教授は「左右の壁だけでなく、論者と読者にある年齢層の壁も越えようとした。『論座』がなくなることで、論壇のたこつぼ化が進まないか心配だ」とする。
ともあれ、『論座』休刊が、業界に与える影響は小さくなさそうだ。思想的に対極と見られがちな『正論』の上島嘉郎・編集長も「休刊は本当に残念。論壇の『面倒な』議論が避けられる傾向が、一般に広がりつつあることも休刊の原因ではないか。『明日は我が身』という危機感を持ち、深みのある議論に多くの人が振り向くよう努めていきたい」と話している。
毎日新聞 2008年8月7日 東京夕刊