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ベトナムODA:わいろは「商慣習」 受注で激しい競争

 急激な経済成長が進むベトナムを舞台にした日本企業の「現金攻勢」が刑事事件に発展した。東京都の大手コンサルタント「パシフィックコンサルタンツインターナショナル」(PCI)が、ホーチミン市人民委員会の業務管理局長に渡した資金は総額3億円近いとされる。現地を歩くと、日本の政府開発援助(ODA)事業を巡って展開される激しい受注競争の一端が見えた。【岩佐淳士】

 ほこりを巻き上げてバイクの群れが行き交うホーチミン市の一角。日本とベトナムの国旗、そしてPCIの社名が記された工事看板があった。ここは国際協力銀行の円借款事業による「サイゴン東西ハイウェイ」建設現場。2010年の完成を目指し、市中心部の運河に沿って建設が進められる一大プロジェクトで、今回の「贈賄事件」の舞台になった。

 「その問題はよく知っているが、何も話せない」。先月下旬、ライバル会社の現地スタッフは、PCIの金銭工作について口を閉ざし「仕事のやり方がおかしい」と漏らすにとどまった。

 日本の大手ゼネコン駐在員によると、PCIは他に、円借款による市の大規模下水道事業のコンサルティングも受注。ベトナムの大型ODA事業を次々と請け負い「政府関係者と太いパイプがある」と指摘されていた。

 ベトナムでは、公務員に対する一定の贈賄行為は「商慣習」ともささやかれる。ただ、今回の現金授受は、道路建設を担当する市の業務管理局事務所の執務室で白昼堂々と行われ、局長側が受注額の15%前後を要求したという。駐在員は「慣習といっても、PCIの提供額は多すぎる。5%ぐらいが相場のはずだ」と語った。

   ×  ×

 市局長が暮らす4階建て自宅ビルは、市中心地に近い大通りに面していた。玄関には厳重な防犯用シャッター。知人は「本人はまじめな印象だが奥さんは派手だ。子供2人を海外に留学させている」と明かした。

 社会主義体制のベトナムでは公務員の権限は強いが、給与は決して高くない。日本の外務省によると、外資系企業の最低賃金が月額80万~100万ドン(約6000円)なのに対し、公務員や国営企業職員は同54万ドン(約3500円)。「副収入」を求める公務員もおり、そこに受注でしのぎを削る企業が接触機会を狙う構図だ。

 毎日新聞の取材に、局長は「忙しいので何も答えられない」とだけ語った。外国公務員への贈賄を禁じた不正競争防止法に収賄側を罰する規定はなく、局長が日本で罪に問われることはない。

 ◇汚職一掃の意思、国際社会に示す

 外国公務員への贈賄が不正競争防止法で禁止された98年以降、立件されたケースは今回を含め2件にとどまる。途上国で横行する汚職について、経済協力開発機構(OECD)は日本に積極的な摘発を勧告しており、今回の捜査は国際的な要求に応える意味もある。

 海外での汚職を調査するNPO「トランスペアレンシー・ジャパン」によると、07年度までに米国は計約100件、ドイツは計約40件を摘発した。一方、日本は動機や背景まで詳細に解明する「精密司法」が特徴で、現地での調査や事情聴取などが欠かせず、立件の壁になっていた。PCI元幹部らの逮捕にこぎつけたのは、国内での捜索や取り調べで、ベトナム公務員側に現金が渡った証拠が固まり、ベトナムの司法当局も捜査協力を拒まなかった事情がある。

 不正の舞台になったODAは(1)財政事情の厳しい途上国向けの無償資金協力や技術協力(2)円借款による有償資金協力--に大別される。(2)は入札が国際競争になることから、各国企業が現地公務員にわいろを贈ろうとする傾向があるとされる。

 07年分の円借款ODAのうち、ベトナムには最多の979億円が提供された。PCIは円借款ODAだけで年間約50億円のコンサルティング事業を受注する国内トップクラスの企業で、今回の摘発の影響は大きい。

 PCI元首脳は毎日新聞の取材に「リベートを渡さなければ仕事は取れない」と証言した。しかし、今回の捜査は、相手国に貢献するODAであっても「不正な商慣習」は通用しないと警鐘を鳴らしたと言える。【安高晋】

毎日新聞 2008年8月5日 2時30分

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