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医師の過重労働に「緊急停止ボタン」を

 勤務医の過重労働は既に限界に達しており、今すぐ「緊急停止ボタン」を押さなければならない−。「小児科医師中原利郎先生の過労死認定を支援する会」や「勤務医の労働環境を考えるシンポジウム実行委員会」、NPO法人(特定非営利活動法人)「医療制度研究会」などはこのほど、医師の交代勤務の確立や連続勤務の禁止徹底を求める緊急提言を発表した。「崩壊しつつあるのは、抽象的な『医療』ではなく、生身の医療従事者の心と体だ」として、医師の勤務環境の改善を強く訴えている。

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 同実行委員会は6月、東京都内で「あなたを診る医師がいなくなる! 過重労働の医師を病院は守れるのか」と題したシンポジウムを開催。来場者に実施したアンケートによると、回答者全員が「医師の過重労働が原因で起きている医療ミスや医療事故があると思う」と答えている。

 このように医師の過重労働が極限に達する中、同実行委員会や「支援する会」などは「医師や患者、行政、病院などがそれぞれの立場で医師の過重労働問題を受け止め、正しく行動しなければ、日本の医療は立て直しが困難になるまで崩壊し、その影響が国民全体に及ぶ」として、2点から成る緊急提言を発表した。

 提言では、病院で現在、「当直」とされている業務について、「その多くは『労働法規』上の当直ではなく、夜間労働である。厚生労働省が2002年に出した『当直時に通常の診療をしてはいけない』との通知にも明記されている」と指摘。これを踏まえ、「病院は、医師の当直を夜間勤務と正しく位置付け、当直という呼称を廃止し、交代勤務の体制を早急に整える」ことを求めている。

 また、夜間勤務(現在の呼称では当直)の翌日も医師が医療に従事することについて、「医療事故やミスに直結しうる危険な行為であることを、行政、病院、医師、患者が共通の認識とする」必要性を指摘。その上で、「夜間勤務明けの医療行為を禁止する。直ちに禁止することで弊害が大きい医療現場では、連続勤務の禁止措置を取るまでに必要な行動計画を速やかに策定する」ことも求めている。

【小児科医師中原利郎さん】
 中原さんは1999年8月、勤務先の立正佼成会附属佼成病院(東京都中野区)の屋上から身を投げた。99年1月から4月にかけ、医師6人のうち3人が退職。部長も退職し、中原さんが部長代行になった。中原さんは、医師の補充対策や小児科経営などの責任を負ったほか、3月には8回、4月には6回の当直を担当。中原さんの当直回数は月平均5.7回で、小児科医の平均の約2倍に達し、極度の過労から、うつ病になった。

 妻のり子さんは、医師の過重労働などの改善を求め、2002年12月に同院を相手取り「民事訴訟」、04年12月には国を相手取り「行政訴訟」を起こした。行政訴訟は07年3月の判決で、東京地裁が「うつ病になる直前の1999年3月には、宿直が8回に増え、休日は2日。後任医師を確保できず、管理職として強いストレスが掛かっていた。病院での業務が精神疾患を発症させる危険性を内在していた」として労災認定。
 しかし、半月後の民事訴訟の判決では、「宿直が8回に増えたとしても過酷ではなかった。業務が原因でうつ病を発症する危険な状態だったとはいえない」として、原告の訴えを棄却。医師の当直の過重性に対する判断などでは、行政訴訟、民事訴訟共に同様の争点でありながら、逆の判断が下された。

 のり子さんら原告が東京高裁に控訴。このほど結審し、判決が今年10月22日に言い渡される。


更新:2008/08/07 20:48   キャリアブレイン


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