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2008年8月 6日 (水)

野口みずき選手秘話

いよいよ北京五輪が始まります。各週刊誌も五輪ネタのオンパレード。僕は今回、野口みずきさんの取材を担当しました。野口さんには幼い頃に別れた実の父がいるという情報を得たのです。

静岡県内のこだま停車駅から車で十分あまり。幹線道路から一本入った静かな市街地にある一軒家を訪れました。この辺りの家々には塀がなく、都心の住宅街とは違ったのどかな雰囲気をかもし出しています。お孫さんのものでしょう。玄関脇に置かれた補助輪付きの自転車や空気の抜けた簡易プールがにぎやかな家庭を想像させます。
玄関のベルを鳴らし訪問を告げると穏和で上品な女性が出てきました。
「出版社の方がいったい何のご用ですか? Aの妻ですけど」
「野口みずきの件でAさんのコメントをちょうだいしたく訪問させてもらったのですが」
「野口みずきさんって誰ですか?」
「あのアテネで金メダルをとった野口みずきさんのことなんですけど」
「うちの人とみずきさんと一体どういう関係があるって言うでしょうか?」
 奥さんはどうしてマスコミの人間がやってきたのか到底理解できないといった風でした。
「みずきさんの実のお父さんがAさんだということなので、別々に暮らしてはいるものの、二度目の金メダル獲得へ向け父親としてエールを送るようなお言葉を聞けたらと思い、お伺いしたのですけど」
「まさか、そんな。何のことだか……」
 なかなか信じてもらえません。
 これまでの取材のプロセスを説明し、いかにして静岡までたどり着いたかを諄々と説いた。ようやく理解していただいたものの、
「確かに主人も再婚で、前の奥さんとの間に子どもさんがいることは知っています。でも今の話はまったくの初耳です。主人からは一言もそのような事実を聞いておりません」
と動揺を隠せません。
「なんとかAさんと話をさせてもらえないでしょうか?」頼み込んでみますが、
「今まで私たちに一言も洩らさなかったところをみますと、主人には隠しておきたいという意図があったのだろうと思います。きっと何もお話することはないと思います」
「お電話ででも結構ですので何とかひとことだけでもコメントを」と再度お願いするも、
「私も今お伺いした事柄を主人に話すつもりはありません。今まで通り静かに暮らしていきたいので、そっとしておいていただけないでしょうか?」
と逆に懇願されました。

 たとえ一緒に暮らしていないとはいえ、血を分けた娘がオリンピックのゴールドメダリストともなれば自慢の一つもしたくなろうもの。Aさんは新しい家族にすら一言も洩らさず自らの胸の内に秘め続けていたのです。年齢的に「男は黙って」という生き方を持つ最後の世代。スーパーアスリートの陰に一人の男の人生がありました。
多くの人の複雑な想いを胸に野口さんは十七日、北京を走るのでしょう。 

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