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論 点 「小泉改革はどうなったのか」 2008年版
改革の手綱を緩めるな――配慮や優しさだけで強い日本はつくれない
[改革の進展についての基礎知識] >>>

たけなか・へいぞう
竹中平蔵 (慶應義塾大学教授)
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格差拡大も地方の疲弊も「改革の陰」ではない
 国内の政策論議では、しだいに改革路線の修正を求める声が強まっている。経済全体がよくなる中で、地方が疲弊していること、所得格差が拡大していることなどが指摘され、これらが「改革の陰」という言い方で議論されることが多い。そして地方への「配慮」や「優しさ」という表現で、改革の修正を求める傾向が鮮明になっている。しかし、こうした議論にはいくつかの重大な誤りがある。
 地方経済が疲弊していることは事実である。しかしその理由は、厳しいグローバル競争の中で、地方の産業・企業が競争力を失ったからにほかならない。改革(たとえば不良債権の処理)をしなかったら、地方が疲弊しなかったなどという理屈はとても考えられないことだ。かつ地方経済の疲弊は日本のみならず世界的な現象であり、これを国内の改革のせいにするのはいかにも的はずれである。地方の疲弊は「グローバル化の陰」なのである。
 また、世界が「知識型経済」に移行していることから、こうした産業蓄積が乏しい地方経済が弱体化したという面もある。いずれにしても、「改革の陰」ではない。
 改革批判として唯一考えられる理屈があるとすれば、それは、財政改革で公共事業が減ったから地方の経済が疲弊した、という点だろう。地方への「配慮」「優しさ」という表現は、たぶんに地方向け公共事業を意識したものと思われる。しかしここ数年、公共事業を減らしたといっても、これまで他の先進工業国に比べて飛びぬけて高かったものが、ようやく平均並に近づいた、という程度である。そもそも公共投資拡大は、あくまで一時しのぎであり、これで地方の産業・企業が世界と競争できる「強さ」を持つことにはならないのである。
 結局のところ、地方の活性化策を具体的に考えていくと、改革の継続・強化以外に方策はないことが明らかになる。まず求められるのは、地方の基幹産業である農業の抜本改革だ。農地法の改正、農協の改革など、これまで抵抗の強かった農業の構造改革を本格的に進める必要があるのだ。また道州制によって、地方の公共事業の配分を道州にゆだねること、地方産業政策を国から道州に移すことも有用だ。これも、分権改革という名の構造改革である。
 地方の疲弊は、改革の陰ではなくグローバル化の陰の部分である。これに対する最大の対策は、改革の強化なのである。


ポピュリズムは「国土の均衡ある衰退」を招く
 いま改革が緩めば、日本は経済成長の機会を逃し、その負担は結局国民が負うことになる。政治の責任はきわめて大きい。にもかかわらず政治の混乱により、いま改革に対する姿勢が揺らいでいるように見えるのは、残念なことである。九〇年代、日本は改革への機会を逃し、それが「失われた一〇年」を生み出したことを想起すべきだ。
 最大の問題は、多くの政治家が「改革を継続する。ただし地方に配慮する(優しくする)」といった内容の発言を繰り返していることである。では具体的にどのような政策を採るかが不明なままである。配慮と優しさだけで強い地方はつくれない。
 構造改革をめぐる昨今の論議を見ていると、単に経済政策の次元を超えて、この国の根本的なあり方が問われているようにすら感じられる。自分たちの不都合を何でも国のせい、改革のせいにして多くを国に頼ろうとする一部の人たちと、これに安易に迎合する政治の姿は非常に危ういものがある。
 安易なポピュリズム的政策は、日本を「国土の均衡ある衰退」に導くだけである。


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推薦図書
筆者が推薦する基本図書
『構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌』
自著(日本経済新聞社)
『日本経済の新局面』
小峰隆夫(中央公論新社)
『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』
北康利(講談社)


e-data
http://policywatch.jp/
[チーム・ポリシーウォッチ]
http://www.nikkei.co.jp/
[日経ネット]



議論に勝つ常識
2008年版
[改革の進展についての基礎知識]
[基礎知識]「改革の本丸」郵政民営化はどこまで進んだか?



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personal data

たけなか・へいぞう
竹中平蔵

1951年和歌山県生まれ。一橋大学経済学部卒。96年より慶應義塾大学教授。経済学博士。2001年小泉内閣発足にともない入閣、構造改革推進の原動力となる。経済財政担当大臣、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣、総務大臣を歴任。04年参議院議員に初当選するが、06年小泉内閣終焉とともに辞職し、慶應義塾大学に復帰、グローバルセキュリティ研究所所長に就任。『構造改革の真実――竹中平蔵大臣日誌』『竹中平蔵の特別授業』など著書多数。
執筆者他論文
(2005年)郵政民営化は国民の利便を高め、自由で活力ある社会をつくる黒船である
(2004年)財政に頼らず株価と景気を押し上げた。だがそれは改革の序章にすぎない
(2003年)企業活力なくして日本経済再生なし――法人税率の引き下げこそ優先課題
(2002年)頑張った者が報われ、やり直しのきく社会の実現こそ改革の目標である
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