記者の目

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記者の目:安い割には美味 中国・台湾産ウナギ=小島正美

 夏バテ気味の子にウナギのかば焼きでも食べさせようとスーパーに行き、あまりの値段の高さに驚くお母さんの姿が目に浮かぶ。産地偽装で、国産かば焼きの値段が高騰している。

 日本の消費者は食品の国産志向が強い。だが、言われているほど中国、台湾産ウナギの品質は劣るのだろうか。8月5日は土用の(丑うし)の日でウナギがよく売れるだろうが、冷静に比較してみてほしい。

 7月18日、台湾産ウナギのPR会見が東京都内であり、郭瓊英(かくけいえい)・台湾鰻魚(まんぎょ)発展基金会長は「これからは台湾ブランドとして売っていきます」と自信をみせた。同席した涌井恭行・全国鰻蒲焼(うなぎかばやき)商組合連合会理事長も「消費者は違うと思っているかもしれないが品質に差はない」と述べた。会場の水槽には台湾産ウナギが泳いでいたが、国産ウナギと見分けがつくだろうか--。

 海外のウナギ養殖に詳しい舞田(まいた)正志・東京海洋大学大学院教授(水族生理薬理学)はきっぱりと言う。

 「私でも分からない」

 では、何がどう違うのか--。日本のウナギはハウス養殖されている。ボイラーで温めた水温の高い人工池に体長6センチ前後の天然ウナギの稚魚を入れ、約半年~1年育てた後出荷される。えさはアジやイワシなどの魚粉が主体だ。

 一方、中国、台湾のウナギは大半が露地の池で育てられる。加温しないため、育つ期間は約1~2年と日本より長く、えさはスケソウダラなどの魚粉だ。土地代などが安いため、飼育密度は日本のハウス養殖の10分の1~20分の1とゆったりと育てられる。

 意外なことに稚魚は日本、中国、台湾もフィリピン東方の北太平洋生まれで、遺伝子のDNAはいずれも同じだ。「あえて違いを言えばウナギの成長の速さと生産者の養殖知識のレベルくらいでは」(舞田さん)

 味や品質については、個々のかば焼き店に話を聞くと「素人には分からないだろうが、中国、台湾産の方がやや泥臭い」といった見方がある。しかし、東京都内で複数の国産ウナギのかば焼き店を経営し、品質に精通している三田(さんだ)俊介・東京鰻蒲焼商組合理事長は「味の好みは消費者によって異なるだろうが、特に国産の品質が優れているとは言えない」と話す。

 だが、価格差は大きい。

 中国、台湾産の生きたウナギの輸入価格は1キロ当たり(4匹)約2000円なのに、国産は約2400~2500円と2割程度高い。末端のかば焼きだと、国産は1キロ約5000円なのに対し、中国・台湾産は約2000円と2倍以上の開きがある。

 日本で生産・流通業者がぼろもうけしているからではない。加温設備や人件費など日本の生産コストが高く、価格に転嫁されているにすぎない。だから、安い台湾産を仕入れ、国産かば焼きとして高く売ればもうけは大きい。産地偽装はそこを逆手に取る。中国、台湾からウナギを輸入するセイワフードの原野茂樹・営業2部副部長は「とにかく中国、台湾産ウナギの評価が低すぎる」と嘆く。

 「食品の迷信」の著書もある食品アドバイザーの芳川充さん(45)は「日本の業者が消費者をだませたのはむしろ中国、台湾産は質がいいから。イメージで国産にこだわるのではなく、冷静に価格と価値をはかりにかけることが大切だ」と話す。まったく同感だ。

 一方、中国産ウナギの一部から合成抗菌剤のマラカイトグリーンの代謝物が検出された問題もあった。日本でも以前から使われ、法律改正で使用禁止となったのは03年7月のことだ。中国でも3年前から禁止されたが、検出されたのはごく微量で健康に影響するレベルではなく、以前に使われたものが池の底に残っていたか、水域汚染が考えられるという。ただ、中国、台湾ではウナギは重要な輸出品目だ。出荷時や加工段階、港の検疫と複数回にわたって動物医薬品の検査をし、その体制は日本より厳しい。日本では出荷時の自発的なサンプル検査が中心で、さらに充実させる余地は大きい。

 中国、台湾産のウナギの肩を持つつもりはないが、国産に比べ不当なまでに低い評価は、やはり冷静さに欠けると思う。

 愛知県犬山市の木曽川沿いで育った私は小学生のころ、竹を筒状に編んだ漁具を川底に沈め、よくウナギを捕った。いま最も心配しているのは、産卵する天然親ウナギが護岸工事やダムなどで海に帰る量が減り、日本、中国などの河口域で取れる稚魚が激減することだ。そうなれば、日本、中国、台湾の養殖自体が成り立たない。

 産地うんぬんよりも、食卓に上るウナギも身近な環境問題と密接にかかわっており、それがより重要だということにもっと目を向けてほしい。

 (生活報道センター)

毎日新聞 2008年8月1日 0時11分

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