日本と韓国がともに領有権を主張している竹島(韓国名・独島)の帰属先に関し、米政府の地名委員会がウェブサイト上の表記を「主権未定」から「韓国領」に再度変更した。6日に予定されている米韓首脳会談を前に韓国側に配慮したようだ。
しかし、事は国の主権にかかわる問題である。ブッシュ大統領訪韓の手みやげにするほど軽い話ではない。米政府のご都合主義は納得できるものではない。
竹島の帰属先について地名委員会は数日前、ウェブサイト上の表記をいったんは「韓国領」から「主権未定」に変えた。「中立」の立場を強調する米政府が「主権未定」と表記するのは、日本からみれば当然のことだ。むしろ、それまで「韓国領」と表記されていたことが不自然である。
ところが、米政府はこの表記を再び「韓国領」に戻した。国家安全保障会議(NSC)のワイルダー上級アジア部長はその理由について「現時点では変更に正当な根拠はない」と述べたが、これには説得力がない。
なぜなら、国務省の報道担当官はつい2日前、表記を「主権未定」に変更したことについて「領有権問題では日韓のどちらかを支持するものではない、との米政府の方針に一貫性を持たせた」と語っていたからだ。
この理屈によれば、「韓国領」への再変更は「どちらかを支持するものではない」との「中立」の立場を覆すことにならないか。
表記の再変更はブッシュ大統領がライス国務長官に検討を指示した結果だという。そうだとするなら、大統領や国務長官は事の重大性をどれほど認識しているのだろうかとの疑問を抱かざるをえない。
竹島の帰属については1951年のサンフランシスコ平和条約案作成の際に、韓国は日本が放棄する地域に「独島」を含めるよう要望したが、米政府は「かつて朝鮮によって領有権の主張がなされたとはみられない」として受け入れなかったいきさつがある。
米国のこの立場はどうなったのか。「日韓のどちらかを支持するものではない」と言うなら、米政府はウェブサイトの表記をいじる小手先の対応でなく、明確な言葉で「中立」の立場を説明すべきだ。
一方、日本政府の対応も腑(ふ)に落ちない。町村信孝官房長官は会見で「米政府の一機関がやることに過度に反応することもない」と述べるとともに、米政府の精査の結果を見守る考えを強調した。
日韓の対立をことさらあおる行為は慎むべきなのは当然である。だが、発言すべき時に何も発信しないと国際社会に誤解を与えることになる。竹島の領有権を主張する立場から、ここはまず米政府にきちんとした説明を求めるべきだ。学習指導要領解説書への記載で事足れりとするのでは安易すぎる。
毎日新聞 2008年8月1日 0時17分