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死因究明で議論錯綜―日本医学会(上)

 死因究明制度の「法案大綱案」に反対する学会を巻き込んで開かれた日本医学会による「診療関連死の死因究明制度創設に係る公開討論会」。「総意として賛成」の見解が既定との見方もあったが、いざふたを開けてみると、医療界の在り方そのものに対する意見から、業務上過失致死に対する法改正を求める意見、日本医師会の在り方を問う意見など、あらゆる意見が噴出。マイクを待って並ぶ人が出るほどで、議論は迷走を極めた。「氷の上を歩くような感覚で毎日診療している。一歩でも進めてほしい」と、現場の医師の声が上がる。今後、医療者と患者が共に求める中立的な第三者機関の設置に向け、医学界は総意をまとめることができるのだろうか。
 討論の内容を、3回連続で紹介する。(熊田梨恵)

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 討論ではまず、死因究明制度の第三次試案をもとにした法案大綱案について、会場からいくつかの学会の意見発表があった。

■正当な業務への刑事責任追及は反対
【日本産科婦人科学会】岡井崇理事
 正当な業務の遂行として行った医療に対しては、結果のいかんを問わず、刑事責任を追及することには反対。この考えは現在も将来も変わらないと思う。しかしそれは、法律の改正を伴うことで、国民の理解を得るのに大変な年月を要する。我々はまだきちんと国民と対話していない。我々医療提供者と、国民の考え方の間にズレがある。理解してもらうには年月がかかるので、現状として非常に問題点が多い民事上の事故の取り扱いから早く改正する必要がある、という立場だ。(法案大綱案では)特に、『標準的な医療から著しく逸脱した医療』行為を警察に通知するというが、本当に悪質な事例に限られるのかが一番心配。その点の表現などの検討や、届ける対象を明確にするなど(の方法)もある。何とかこの機会にこの制度を成立させていただきたい。


■すべてを考え直す時期
【日本脳神経外科学会】嘉山孝正学術委員会委員長
日本産科婦人科学会と同じ意見だ。明治時代にできた刑法に、業務上過失致死の免責がないということが一番の問題。これには時間がかなりかかると思うので、当面どうするか。第二次、三次試案、法案大綱案と出てきたが、刑法に業務上過失の免責がないからといって、受け入れるのだろうか。われわれは社会のすべてについて、これをきっかけに考え直す時期では。患者のために、事実が(表面に)出る(医療事故)調査が大事。法案大綱案と第三次試案には反対だ。


■「○○省」は外局に
【日本小児外科学会】河原崎秀雄理事
当学会は、日本外科学会のサブスペシャリティのうちの一つであるため、基本的には同じ意見だが、大綱案には7つの問題点がある。ここでは3点を指摘する。一つ目は、「『○○省』に医療安全調査中央委員会を置く」とあるが、委員会の中立性と独立性が守られる設置形態にするためには、予算がかかるなど現実的には難しいかもしれないが、省内ではなく、外局に設置するのが望ましい。二つ目は、警察への通知について。『標準的な医療から著しく逸脱した医療』はいかようにも解釈できるので適切ではない。警察への通知は、『犯罪の可能性が高い』と委員会が判断したものに限定されるべき。医療事故死に該当するかの基準だが、臨床の現場ではこの基準がもっとも大事な判断基準になるので、早く公表してほしい。


■「改正」は語弊
【日本消化器外科学会】杉原健一理事
医療安全調査委員会(医療安全調)の独立性が明確にされていない。『標準的な医療から著しく逸脱した医療』の定義があいまい。医療事故に関する基準を、誰がどのようにしてつくるかが明確でない。遺族の警察への告訴に、どう対処するかが記載されていない。こういうシステムをつくるのは大事だが、これらの点を明らかにしてほしい。医師法21条を『改正』と法案大綱案に記載されているが、内容を見ると改正されていない。これを『改正』というのは語弊があるのでは。


■書面で意見を提出した学会

 高久史麿・日本医学会長が、各学会の意見を紹介した。
 一つは日本整形外科学会。「拙速な法制化には慎重であるべき。制度が責任追及の場を提供することになっては困る。民事、刑事、行政処分の場での責任追及に利用されないようにする、という言葉がない。また、『標準的な医療から著しく逸脱した医療』の判断基準の在り方に十分な議論が必要。法案大綱案には行政・司法的処分は詳細に規定しているが、本来の目的である再発防止について、(医療安全調)中央委員会の所掌義務とするにとどまり、具体的な方策などを先送りしている」
 日本臨床整形外科学会は、「基本的には賛成ではない。厚労省、日本医師会など関係各団体の再検討を要望する。黙秘権を認めるべき。検察、司法当局が謙抑的に対応するとしているが、刑事訴訟法に基づいて自由に提訴できるため、謙抑的な対応をするという文章を法案に組み込むべき、など」
 赤松クリニック。「調査結果が刑事手続きに用いられることを想定しているにもかかわらず、黙秘権が明確に担保されていない。これは刑法や憲法を凌駕するもの、など」


<意見交換>

 司会の門田守人・日本医学会臨床部会運営委員会委員長の、「問題点がたくさんあり、全部というわけにはいかないので、どうしても触れなければならないところから始める。医師法21条について、医療関連死が除外される方向を目指すことは、基本的にこれでよいか。『21条でいい』『現在の大綱案では除かれていない』という意見もあるが」との投げかけで議論がスタートした。


【医師法21条をどう考えるか】

堤晴彦・日本救急医学会理事 
医師法21条については、届け出ると刑事訴追されることを恐れて問題になっているのだろうが、もっと重要なのは、何が刑事訴追されるかということ。道交法でも業務上過失致死罪が問われるものは、文章で明確に決められている。しかし、医療は決められていない。医療過誤においては法律を変えないといけないという議論があるが、現行の法律を変えなくても、医療事故のどの部分が業務上過失致死罪になるかということを法曹関係者が明記するだけでかなりの部分が改善する。その議論をした上で、21条に踏み込むべき。21条だけ何とかすればよいとは考えていない。法律関係者と十分議論すべき。
 関係者が警察に届けることを「ノー」と思っていない人はかなりいる。患者側も、医療事故が起きたとき、第三者機関よりも警察に届ける方がいいと思っている人もいる。個人の意見としてだが、どんどん警察に届ければよい。そうすれば警察はパンクし、自分たちが組織を何とかしないといけないという方向になる。そこまで持ち込んで、向こうが動き始めたらそれに乗ればいいだけ。今のままなら警察も検察も高みの見物だ。「やるならやってごらん、うちは使えるものは使いますよ」という態度で彼らはいくだろう。
 警察側が家族側にしっかり説明してくれて、紛争が収まることもある。現場の警察官は努力しているので、そこは評価しないといけない。しかし、医師にも一部変な医師がいるように、警察にも変な人はいる。そこをどうするかということ。

■「医療行為が犯罪」という基準が狂っている

本眞一・日本外科学会理事 
(警察の)基準が犯罪になっている。医療行為を犯罪行為として見るかどうかという最初の点で狂っているので、医師法21条によって何が起こったかを把握しようと警察は思っている。最初にこういう判断をされるのはまずいので、われわれ専門家による専門的な判断で「悪いなら悪い、いいならいい」というほうがよいのでは。
堤氏 同感だ。警察・検察が、自分たちで法的判断を決めてから動くということが問題。高本先生が(医療安全調創設に)60−100億円掛かると言った。警察・検察の中に医療的判断を行う機関をつくり、そこにわれわれ医療者が乗れば、法的判断がなされる前に医療的判断がなされるものがつくられる。そういう単純な話なのだが。
嘉山氏 医師法21条は厚労省内部でのマニュアルに近いもの。ちょうど厚労省医療安全室長の佐原康之さんがここに来ている。医師法21条をどう変えるのか聞きたい。
佐原康之・厚労省医政局総務課医療安全推進室長 医師法21条については、異常死は警察に届け出るということにしている。勤務医は病院管理者に届けて報告することで、警察への届け出義務を解除するとした。報告を受けた病院管理者は、医療法によって医療安全調査委員会に届けるという義務がある。この場合には医師法21条のような刑罰ではなく、適切に行われなかった場合に行政処分で担保していくということを第三次試案で提案している。

■このままなら「大野事件」起こる

木下勝之・日本医師会常任理事 
新しい考え方の基本は、医療事故が起こった時に、医療界の専門家が原因を究明して再発予防に努めるということ。業務上過失致死傷罪になるかどうかの論点だけではない。警察に調査判断を任せていいのか。医療界が責任を持ってやろうという仕組みだから、第一歩として、我々の目を通した上で(警察に)届けた方がいい。このままならば、「福島県立大野病院事件」のようなことも起こり得る。これは大きな問題。まずは医療界が真剣に対応し、事実究明しようということがあった上で、遺族や国民も認める。その仕組みをつくろうというのが考え方の基本だと理解してほしい。
永井良三・日本内科学会理事長 
医師法21条による届け出で警察がパンクするというのも一つの手。しかし、そこで起こるのが、的外れな鑑定書が出てしまうということ。誰が見ても医学的に正当な鑑定書であれば問題ないが、的外れな鑑定書が出たら、警察はそれによって動く。それをいかに防止するか。その意味では、よほどの犯罪でない限り、届けるなら警察は介さない方がいい。そのことと、業務上過失を問われることは、刑法改正の話になって難しい。われわれが、刑法の改正を待たずにこの何年かの間、警察が介入しないようにどう動くかという問題だ。
堤氏 誤解があるようなだが、木下先生の言うことはその通りと思う。21条を改正しなくてよいとは思っていない。ただ、医療行為の中の何が業務上過失傷害罪になるのかの議論を先にしてほしいということ。道交法ではっきり定められているのだから、医療行為の何が業務上過失に当たるかは法律変えなくても明文化できると、全く疑問を持たずに思っている。刑法学者も同じことを述べている。法律側と医療側がきっちりするべき。木下先生と高本先生が(法務省などとの話し合いを)別なところでやったというが、それは密室の議論なのでまずいと思う。警察も検察もメンバーに入れてきっちりした議論をすべきだ。


更新:2008/07/30 15:35   キャリアブレイン


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