仙台地裁で今年、裁判員裁判の対象とならない事件で即決裁判が増えている。地裁は1月から、裁判員裁判対象事件の公判を原則的に連日開廷する本番並みの態勢に移行。検察側が負担の大きい対象事件の公判に対応するため、それ以外の事件に即決裁判を活用することで人員や労力をやり繰りしている。
裁判員裁判は、裁判員の負担軽減を主目的に連日開廷による迅速審理を掲げる。対象外事件での即決裁判の増加も裁判員制度がもたらした現象と言え、東北の他地裁でも今後、同様の傾向が強まりそうだ。
仙台地裁によると、今年1―6月の即決裁判は20件で、既に昨年1年間(13件)を上回った。覚せい剤取締法違反や大麻取締法違反など薬事関係が9件と最も多く、道交法違反などの陸運関係6件が続く。
裁判員裁判の対象事件の開廷状況は、初公判から判決公判まで切れ目なく開廷した事件が16件に上る。うち論告求刑公判と判決公判が同一日(結審即日に判決)は6件、結審翌日に判決公判を開いたのは10件だった。
仙台地検の千葉雄一郎刑事部長は「連日の公判には相当な労力と人手が必要。(即決裁判に付されるような)有罪が明白で軽微な事件にも同様に労力を向けたのでは、対応しきれない」と指摘。「エネルギーとマンパワーの余裕を作る必要があるため、即決裁判を積極的に活用している」と説明する。
即決裁判は起訴から短期間で初公判が開かれる上、懲役・禁固刑には必ず執行猶予が付く。被告が早期に身柄拘束から解放される利点があるが、仙台弁護士会刑事弁護委員長の門間久美子弁護士は「情状酌量の立証などは必要で、労力が減るとの感覚はない」と、検察とは異なる見方を示す。
公判前整理手続きで主張と争点を整理して追加主張を原則的に認めない裁判員裁判や、有罪を前提とし起訴事実を争えない即決裁判については、「公判が儀式化、形骸(けいがい)化する」などとして、刑事裁判の変容や変質を懸念する声もある。
[即決裁判]2006年10月に導入。軽微で争いがない事件の初公判で容疑者や弁護人が有罪を認めて同意すれば、原則的に1日で判決言い渡しまで終える。検察官が起訴と同時に申し立て、初公判で裁判官が手続きの採否を決定する。検察官の冒頭陳述は省略。懲役・禁固刑が言い渡される場合は必ず執行猶予が付く。検察、被告双方とも事実誤認を理由に控訴できない。
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