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【食と健康】

うつにならない食生活(6) 誤解の多いコレステロール

2006年4月25日

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 脳は脂肪の塊と言える。水分を除くと70%は脂肪だ。そのうち20%がコレステロールからなる。情報の伝達に電流を用いる脳は、神経の線維をコレステロールで絶縁している。

 コレステロールと聞くと多くの人は「悪玉、善玉がある」と答える。誰でも体に悪者はいらないと思うのは当然だ。悪玉コレステロールのLDLコレステロールは低いほど体に良いと思ってしまう。一方、善玉コレステロールいわゆるHDLコレステロールは体に良いとされるので、これが増えるのが良いという知識も広まっている。

 私たちの体のコレステロールは1日約0・1−0・4グラムを食べ物から取り込む。しかし体の中でも約0・7−0・8グラム合成される。体重70キロの人で約140グラムのコレステロールがあるが、その一部はステロイドホルモンになる。ステロイドホルモンには副腎皮質ホルモンや性ホルモンが含まれる。

 生体の働きに重要なコレステロールを肝臓から臓器に運ぶのがLDLで、臓器から肝臓に戻すのがHDLだ。運ばれる先の細胞が血管壁だと、動脈硬化を起こすので、なるべくLDLは少ない方が良いのだ。血管の細胞に取り込まれたコレステロールを取りだして、肝臓に戻すのがHDLだから、動脈硬化を防ぐにはLDLは悪玉、HDLは善玉になる。

 しかしコレステロールが運ばれるのは血管壁だけではない。体のすべての細胞に運ばれる。こう考えればLDLが善玉なのだ。LDLがあってこそ細胞膜は安定し、ホルモンもできる。もしLDLが少なければ、女性の健康にとって重要な女性ホルモン、エストロゲンはできない。女性ホルモンは脳内でセロトニンを増やす。だから月経前のように女性ホルモンが少ないとき、出産直後に女性はうつになりやすい。このように精神を安定させ、うつを防ぐのがコレステロールだ。コレステロールの濃度が下がると、うつ状態になることが知られている=図。

 フィンランドのビルクネン教授は注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもを調べたところ、すべてコレステロール値が低いことが分かった。“切れる子”の一部は、コレステロールが足りないためにそうなったのかもしれない。脳の正常な活動、感情の抑制にコレステロールは必要だ。一面だけをみて悪いと決めつけるのは正しいことではない。

 生活習慣病さえ防げば、国民の健康は増進するというのは誤った考えだと思う。うつを防ぐには脳に十分なアミノ酸と脂肪を与えないといけない。コレステロールの重要性は無視できない。やせていればスタイルがよいとか、健康を保てるという誤解から脂肪摂取を極端に減らすことは、人々をうつに駆り立てていると言ってもいいだろう。

 

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