中日新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 静岡 > 地域特集 > 食と健康 > 記事一覧 > 2006年の記事一覧 > 記事

ここから本文

【食と健康】

うつにならない食生活(5) ブドウ糖も精神の安定に必要

2006年4月11日

浜松医科大名誉教授 高田 明和

写真

 砂糖についての誤解はなくなりつつある。砂糖はブドウ糖と果糖からできているが、果糖は体に入るとブドウ糖のようになるので、砂糖をとることはブドウ糖を取ることになる。米やそば粉はでんぷんからできていて、でんぷんはブドウ糖が連なってできている。だから米やそば粉もブドウ糖からできている。10グラムの砂糖と10グラムのそば粉のカロリーはほとんど同じ。砂糖には魔術的に人を肥満させる要素はない。

 脳はエネルギーとしてブドウ糖しか使えない。筋肉などは脂肪を燃焼させることができるが、脳はブドウ糖しかエネルギーとして使えない。ブドウ糖の供給が数分止まると、脳は機能しなくなる。砂糖を与えて記憶のテストをすると、サッカリンなどではみられない記憶の向上がみられる。

 トリプトファンが脳内でセロトニンになると説明した。しかしトリプトファンは自動的に脳内に入っていくわけではない。それにはブドウ糖を摂取して血中のインスリンの濃度を上げる必要がある=図。食後のデザートは、砂糖が効果的にブドウ糖を供給し、それが脳内にトリプトファンを取り込ませることになり、都合がよい。

 米国のマサチューセッツ工科大のバートマン博士は、うつな気分の人がポテトチップスなどスナックを食べ続けるのは、血糖値を高めインスリンを出させて、脳内にトリプトファンを取り込ませようという本能的な試みだと説明している。

 甘いものは生活習慣病には危険とされる。ブドウ糖の過多は糖尿病を引き起こし、肥満をもたらすとされる。しかし日本人はこの20年間に炭水化物の摂取が18%も減った。砂糖の摂取も半分になった。一方、糖尿病は急速に増え、60代の3人に1人は糖尿病と言われる。

 一般に、あるものを摂取しなくなったからある病気が増えたというときには、それを取らないことがその病気の原因に関係していると言わないだろうか。このことは単に炭水化物の量を減らしたり、砂糖の摂取を少なくしたりすることが糖尿病の予防になるとはいえないことを示している。

 ブドウ糖、トリプトファンは精神の安定に必要だ。最近の研究では、強度のストレスが長く続いたうつ状態は副腎皮質からコルチゾルを過剰に放出させ、脳細胞とくに記憶の入り口とされる海馬の細胞を死滅させるということが分かってきた。うつが続いても、同じようにコルチゾルが出る。

 もうひとつの最近の発見は脳細胞の増加だ。以前は、脳細胞は生後は分裂しないと言われていた。しかし最近では、脳にある幹細胞は生後も分裂し、実験では72歳の高齢者の海馬の細胞も分裂していることが確かめられた。さらに重要なことはセロトニンはコルチゾルによる細胞死を防ぐ。

 脳の健康に肉食と砂糖摂取が関与しているとするなら、摂取を少なくすることは健康に悪いことだと言えるのではないだろうか。

 

この記事を印刷する