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【食と健康】

うつにならない食(3) 現実をどう考えるか?

2006年3月14日

浜松医科大名誉教授 高田 明和

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 セロトニンの有効利用を図るSSRIが効果のみで、副作用がなければ問題はない。ところが最近、SSRIの副作用が問題視されている。

 不思議なことにSSRIを使って自殺する例が増えた。十八歳以下の場合は深刻だ。欧米の製薬会社は子どもの自殺症例の発表を控えようとしたため、政府も世間もいっせいに会社を非難した。さらにSSRIを用いていると性的に不能になる率が50%近くになる(女性も性に関心がなくなる)、疲労感、やる気がしなくなるなどという不愉快な副作用があることも分かった。

 そこでうつのような暗い感情をもつ理由として別の考え方が出された。それは、私たちの感情は外界の事件がそのまま反映されるのではなく、事件をどのように解釈するかにより感情は生まれるというものだ。

 二千年以上前にギリシャの哲人エピクテタスは「人は現実によって悩まされるのではなく、現実をどのようにみるかで悩まされるのだ」と述べた。旧約聖書には「汝(なんじ)が心に思うことが、汝である」と記載されている。シェークスピアはハムレットの中で「この世には善も悪もない。ただお前がそう思うだけだ」と書いた。

 もしあなたがうつ状態にあるとすると、ささいなことでも何か悪いことが起こったのではないかと受け取るかもしれない。しかし本当だろうか。それはあなたがそのように解釈しているか、そのように解釈する考えを正しいとしているからではないだろうか。

 このような考え方は次のような性癖に基づいている。(1)イエスかノーの二者択一(2)普遍化=あることがすべてに当てはまるとする(3)すぐに結論を出そうとする(4)物事を過大に解釈したり、過小に解釈したりする(5)なにかで“あらねばならぬ”と考える(6)決めてかかる(7)自分だけのことと思う−などだ。つまり、考え方がゆがめられていると、いくら薬を飲んでも治らない。

 こうなるともう一度、うつと脳の関係を見直そうということになるのは当然だ。図に示すように、神経は血液からトリプトファンを取り込み、セロトニンに変え、そのセロトニンは次の神経を刺激して精神に安定を与える。もしトリプトファンが与えられないと、神経のセロトニンは枯渇する。実際、ヒトでもトリプトファン欠乏食を与えると、数時間で血中のセロトニン量は10%くらいに下がる。これが気分に影響を与えるのだ。

 エール大学のデルガド博士らは、トリプトファン欠乏食を与えた人に質問をした。「人に会いたくないですか」「過去の失敗が気になりますか」「気分が落ち込んでいますか」などだ。答えを点数で表すと、うつ病指数になる。トリプトファン欠乏食を与えると、うつ病指数は高まり、トリプトファンを与えると元に戻ることが分かった。これは私たちの気分、感情がいかに摂取したトリプトファンの量に依存しているかを示すものだ。

 

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