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【食と健康】

うつにならない食(1) インド蛇木の根 鎮静効果も

2006年2月7日

浜松医科大名誉教授 高田 明和

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 最近のうつの増加は驚くほどだ。なぜこんなにうつは増えているのか。

 たとえば自殺。日本では一九九七年までは毎年二万二千−二万三千人が自殺していたが、九八年から毎年三万人を超えている。この数字は先進国では一位で、米国の二・五倍だ。注意したいのはうつで自殺する人は多いが、自殺がうつの結果起こる状態かどうかはまだ分かっていない。自殺はうつに伴って起こりやすい別の心の状態ではないかという説が強くなっている。

 うつ病の程度と自殺はあまり関係しない。強度のうつに悩む人が自殺せず、ほんのちょっとした心の動揺で自殺することもある。うつ病の率と自殺もあまり関係しない。女性は男性の三倍くらいうつ病になりやすいが、男性の方が三倍くらい自殺する。しかしうつに伴う重要な問題として自殺があるということは事実だろう。

 気分が食べ物の影響を受けることが分かったのは、あまり古いことではない。ヒンズー教では修業の結果、心を病む人にインド蛇木=図=の根をしゃぶらせて治した。しゃぶると気分が落ち着くからだ。一九三〇年代にインドの内科医がインド蛇木の根に精神を鎮静させる成分があると報告した。するとスイスの製薬会社チバ社の研究者が成分を抽出し、レゼルピンと名付けた。その後、レゼルピンには鎮静作用とともに血圧を下げる作用があるということも分かり、降圧剤として売り出した。日本でもよく使われた。

 ところがこの薬を使った人にうつの症状が現れ、自殺者も出た。同社が原因解明に乗り出し、レゼルピンは脳内のモノアミンといわれる物質、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンを減らすことが分かった。モノアミンが減ると感情は暗くなり、うつになるということが分かったのだ。

 そのころ結核治療薬としてイプロニアジドという薬が使われた。この薬で結核を治した人は精神が高揚し、気分が良くなった。調べると、モノアミンが増加していた。イプロニアジドはモノアミンの分解を阻害するので、脳内にモノアミンが多くなり、元気になったのだ。五〇年代にニューヨークの精神科医ナタン・クラインはイプロニアジドをうつ病患者に投与して著しい効果を挙げ、イプロニアジドはうつ病の最初の薬になった。

 ところがイプロニアジドはモノアミンに似た物質を分解しないようにする。とくにチーズなどに入っているチラミンという物質を分解しないようにするので、服用者は血圧が上がるなどの副作用を引き起こした。

 一方、抗アレルギー剤から脳内のモノアミンを増やす薬も見つかった。スイスの精神科医ローランド・クーン博士をこれをうつ病の薬に使い、効果を挙げた。この物質は三つの環状構造をもっているので、三環系の薬と言われ、その代表がイミプラミン(商品名トフラニール)だ。

 

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