昭和の代表的な街の風景だった「牛乳屋さん」。需要減やスーパーの安売りに押され、いま宅配店は減少傾向にありますが、玄関先まで決まった日時に商品を届ける「定期便」の強みもあります。高齢時代に向け、新たなサービスの模索が続きます。
■お年寄りの安全・安心を確保
「あなたを待っていたのよ。お茶が冷えているから上がって」。京都市下京区の牛乳宅配店「アサイ」の従業員、中村泰彦さん(19)を、ひとり暮らしの83歳の女性が笑顔で出迎えた。
アサイが契約する約1900世帯のうち6割以上は高齢者だけの住まい。ほぼ1日おきに決まった時間に訪ねる牛乳屋ならではの強みは、高齢者の安全・安心の確保――店主の浅井啓司さん(50)は、そう考える。箱に前回の牛乳が残っていて応答がなければ、登録した遠隔地の家族などに連絡を入れるサービスを1年以内に始める計画だ。
自治体が宅配店と連携して高齢者の安否を確認する愛知県犬山市のような例もあるが、アサイは午前9時〜午後6時の間の決まった時間に配達するので、声かけサービスもできる。浅井さんは「単なる宅配業では生き残れない」と話す。
一方、宇都宮市の宅配店主の平石一さん(59)は、月に6回は市内の特別養護老人ホームの事務室に向かう。瓶牛乳やジュースなどの新商品を冷蔵庫に補充するためだ。
これは、森永乳業が宅配店の新たな収益源にしようと始めたオフィス向け常設冷蔵庫「コンビニBOX」。セルフサービスで、備え付けの箱に代金を入れる方式だ。平石さんは郵便局や工場なども開拓しており、計20カ所で毎月40万〜50万円を売り上げる。
だが、本業の宅配の契約世帯数はこの1年で5%程度減った。後期高齢者医療制度の保険料天引きが始まった今年4月には、約10世帯が「牛乳はもう飲めない」と契約を断ってきた。契約する約950世帯の8割以上が中高年層だから、今後の動向も心配だ。