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【社会】

区立図書館 貸し出し破損に苦悩 異例の履歴保存 効果

2008年7月13日 朝刊

図書館が悩む、水でふやけたり、ペンで書き込みがされた本。割れたCDも=東京都練馬区で

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 図書館の蔵書を切り取ったり、CDを破損したりするなど利用者のマナーが乱れているとして、東京都練馬区教育委員会が、区立図書館で資料の貸し出し履歴を一定期間保存するシステムを始めたところ、破損資料の除籍件数が三カ月連続で減少した。全国でも異例の取り組みの“抑止力”が働いた形だが、他の図書館関係者からは「ここまでやらなければいけないとは…」との嘆きも漏れている。 (原昌志)

 区教委は一月から、区内十一カ所の図書館で資料を借りた人の登録番号などを、その前に借りた二人の番号などとともに保存する仕組みを設けた。最長で貸し出しから十三週間保存される。

 図書館の貸し出し履歴は、個人の思想信条と関係するプライバシーとされ、日本図書館協会は「返却後できるだけ速やかに消去しなければならない」との基準を設けている。

 練馬区立図書館も保存を始める前は、返却されると逐一情報を消去していた。しかし、破損が多いため防止策として履歴の保存を始め、図書館の入り口やホームページで利用者にも周知した。

 その結果、月に十件程度、破損した資料の利用者に問い合わせることができ、原因が特定できた四件について弁償させたという。

 いずれも書籍で、飲料の染みがついたり、水でふやけた状態になったりしていた。

 人手が足りないため、すべてを照会するのは不可能だが、状態がひどいものなどを抽出して照会しているという。

 利用者に原因がある破損のため蔵書から「除籍」となった資料の件数は、統計を取り始めた三月には八百三十二件あったが、四月が六百六十一件、五月が五百六十一件(いずれも暫定)と減少。光が丘図書館の伊藤安人館長は「抑止効果が出ていると思われるが、もう少し状況をみて分析したい」と話す。

 日本図書館協会によると、こうした破損などの多発は全国の公立図書館で問題になっているが、履歴保存の事例は練馬区以外ないという。

 同協会の松岡要事務局長は「破損に悩む事情は分かるが、情報が外部の第三者に漏れたり、利用されたりすることが絶対にないと言い切れない。利用者のプライバシーを守るためにも余計な情報は持つべきではない」と指摘する。

 一方、神奈川県のある公立図書館長は「ページが切り取られることは日常茶飯事。モラルも地に落ちており、練馬のやり方は苦肉の策だろう。そこまでやらなければならないのは情けないんですが」と話している。

 

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