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関西特集

地域展望

私鉄広域ネットの夢、阪神なんば線 (07/12/01)

 「阪神電気鉄道は梅田と難波の両方に乗り入れる電鉄会社になる」――今年11月、ベンチャー企業の振興を目指す複合イベント「ベンチャー2007KANSAI」で基調講演した阪急阪神ホールディングス(HD)の角和夫社長は誇らしげに語った。大阪を代表する2大ターミナルである梅田と難波はこれまで様々な局面で集客を競ってきた。その両拠点にアクセスできるのが阪神の強みだ。(編集委員 竹田忍)

三宮―難波を直結

なんば線用に阪神が新造した1000系電車
なんば線用に阪神が新造した1000系電車
 阪神が既存の西大阪線を延伸して2009年春に開業する「阪神なんば線」は西九条―近鉄難波間の3.8キロメートルを15分で結び、延伸区間の乗降客は1日あたり8万1000人を見込む。難波はオフィスと商業店舗の大きな集積地。西九条経由で直結する三宮―難波間は阪神本線の三宮―梅田間と並ぶ魅力的な路線に育つ可能性を秘める。

 新設する駅名も決まった。西九条の次が「九条」、そして「ドーム前」「桜川」と続き、近畿日本鉄道の近鉄難波につながる。それぞれの駅は地下鉄の中央線「九条」、長堀鶴見緑地線「ドーム前千代崎」、千日前線「桜川」と接続し、大阪市の西部における新しい鉄道ネットワークの一翼を担う。

 新線は近鉄の奈良線と相互乗り入れし、阪神三宮―近鉄奈良間の所要時間は70分台となる。生駒山を貫く近鉄奈良線は阪神本線よりもこう配が急。阪神が近畿車両で新造した車両「1000系」は様々な新機能を備え、急こう配にも対応している。坂道では“先輩格”である近鉄の野口満彦副社長は「上りの力はもちろん大切だが、安全運行には坂を下る時のブレーキが最重要」と解説する。阪神は80億円を投じて1000系約70両を整備する計画だ。

相互乗り入れ、近鉄・阪神に温度差

JR環状線の線路をまたいで工事中の阪神なんば線(手前は阪神西九条駅舎)
JR環状線の線路をまたいで工事中の阪神なんば線(手前は阪神西九条駅舎)
 事業開始に向けて着々と進む阪神なんば線だが、相互乗り入れについて近鉄と阪神の間では微妙な温度差があるかもしれない。阪急阪神HDの角社長の目は梅田と難波に向いている。一方、近鉄の関心は「神戸の観光客を奈良まで導くような仕組み」(高松啓二・近鉄常務)にある。近鉄の小林哲也社長が「将来は特急を走らせたい」と話しているのに対し、阪神の坂井信也社長は「需要がどれだけあるのか、まず開通後の状況を見て判断したい」と慎重なのも両社のスタンスの違いを象徴している。

 今年10月、阪急阪神HDが神戸市から神戸高速鉄道株を買い取り、傘下に収める方針が明らかになり、近鉄にとって阪神なんば線が持つ魅力はさらに増した。現在も阪神は梅田駅から神戸高速経由で山陽電気鉄道の姫路駅まで直通特急を運行している。山陽電鉄の筆頭株主は阪神だが、そこに阪急阪神HD入りした神戸高速が加われば、全体でよりいっそう柔軟で機動的なダイヤ編成が期待できる。

 西九条―三宮―山陽姫路間は89.2キロメートルある。近鉄奈良―近鉄難波間は32.8キロメートル。阪神なんば線の分を加えた姫路―奈良の総延長は125.8キロメートルに達し、長距離路線に有料の特急を走らせるという近鉄のビジネスモデルに当てはまる。ただ、阪神は有料の特急を走らせていない。近鉄スタイルの特急を運行するには券売機や座席指定システムを新たに整備する必要があり、設備投資を伴うのが難点だ。

「私鉄王国」よみがえるか

 村上ファンドによる阪神株の買い占め問題に端を発した阪急と阪神の経営統合も微妙に影響している。阪急と近鉄はともに関西私鉄の雄。阪急阪神HDとなった今も近鉄はライバルだ。阪神と近鉄のレールがつながるというだけでは片付かない対立の構図があり、阪神のレール上を近鉄特急が走るのはそう簡単ではない。

 首都圏の地下鉄は銀座線や丸ノ内線を除くと、JRや私鉄とレールの幅が同じ狭軌だ。電気を集めるのもパンタグラフ式で共通。地下鉄を介して私鉄やJRの相互乗り入れができる素地が整っている。ところが、大阪の地下鉄は堺筋線がパンタグラフ式を採用して阪急京都線と相互乗り入れしているだけで、あとはレールから電気をとる第三軌条方式。さらに各私鉄との互換性に乏しいミニ地下鉄まで走らせている。第三軌条とパンタグラフの違いのために地下鉄は広域ネットワークの仲介役とはなり得ない。

 IT(情報技術)も鉄道もネットワークを広げることで付加価値は増す。私鉄同士の相互乗り入れは歴史的必然だ。今回の相互乗り入れがより内容の濃いものになれば利用者の利便性が向上するのは確か。鉄道にレジャー産業や流通業、不動産開発を組み合わせた複合経営を考案し、自動改札に代表される斬新なサービスを次々と打ち出し、世間に「私鉄王国」と言わしめた関西私鉄の度量の大きさがいま求められている。

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