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【社会】

悲願の飛行場 世界遺産候補も壁 小笠原 翼持てるか

2008年7月5日 夕刊

急病人の搬送時に出動する自衛隊の水上飛行艇。島民は生活安定のため、定期航空路の開設を求めている=3日、小笠原諸島・父島で(河口貞史撮影)

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 米国からの返還40周年を迎えた小笠原諸島(東京都小笠原村)で、航空路の開設をめぐる都と村の協議が始まった。島民にとって「返還以来の悲願」ながら、環境保全という壁が立ちはだかり、過去2回、空港建設案が浮上しては消えた。世界自然遺産の候補地という新たな事情も加わる中、3回目となる検討で悲願達成へ“着陸地点”を見いだせるか−。 (社会部・石川修巳)

 「最後は飛行場を取るか、珍しい動植物を保存するかの問題」「環境省との戦いだ」

 四日の返還記念式典で石原慎太郎都知事は航空路構想に触れ、まずは島民らの結束を呼び掛けた。森下一男村長も「島民生活の安定、自立発展に向けた産業振興に必要不可欠」と訴えた。

 東京から約千キロ離れた小笠原諸島・父島への足は、片道二十五時間半、一週間に一度の船便のみ。「東京に出掛けるたびにまとまった滞在が必要で、肉体的、経済的な負担は大きい。航空路があれば解消できる」と村の担当者は説明する。

 都は当初、兄島に建設する案を決めたが、環境庁(当時)の反対もあり断念。父島・時雨山周辺に変更したが、これも撤回した。

 その後、片道十六時間で結ぶ次世代高速船の運航案も持ち上がったが、大幅な赤字が見込まれ立ち消えた。

 これをきっかけに三度目の航空路構想が浮上。今年一月の村民アンケートでは、71%が「必要」と回答した。四月に都と村での協議が始まった。

 一方で、「東洋のガラパゴス」とも呼ばれる小笠原諸島には多くの固有の動植物が息づく。昨年一月、世界自然遺産の候補地となった。これも観光振興につながるとして、村は推進の立場。航空路開設への道のりは、島の暮らしの安定と環境保全の調和をどう図るかのせめぎ合いだ。

 島民は「航空路は医療、福祉の命綱」「これがラストチャンス」と渇望する半面、「本当にできるのか」との不信や徒労感の声も。「自然、不便さこそ小笠原の宝」「島の良さが失われかねない」との懸念も根強い。

 村は航空路を観光客誘致と切り離し、「一便三十人限定」といった生活路線と位置付けることで関係者の理解を求める考えだ。

 予定地は、かつて軍用空港のあった父島・洲崎地区が現実的とみるが、石原知事は「一番平たんな兄島を、もう一度検討すべきだ」と主張している。

 

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