寿和丸、なぜ転覆 パラアンカーに死角
<装備義務付け> パラ泊は、パラシュートのように広がるアンカーを海中に入れて漂泊する。深い海中は潮流が弱く、アンカーはあまり動かないが、船は風と波に流されるため、アンカーとロープでつながれた船首がたこ揚げのような状態で引っ張られる。船首が自然と風浪が来る方向を向くため横波を受けにくく、船体が安定するとされる。 水産高校向けの教科書や、日本船舶職員養成協会の小型船教習教本なども、荒天を乗り切る航行方法として紹介。船舶安全法が200トン未満の漁船にパラアンカーの装備を義務付けていることも、安全神話を強固なものにしていた。 <漁業者に驚き> 海難審判庁によると、審判記録のデータベースが残る1991年以降、他船舶との衝突事故を除くと、パラ泊中の事故は1件だけ。大しけの中で帰港の遅れたプレジャーボートが転覆した事故で、第58寿和丸の事故とは様相が異なる。漁業関係者の多くは「パラ泊中の転覆は前代未聞だ」と口をそろえる。 しかし今回の事故を受け、漁船の海難事故に詳しい村上誠弁護士(東京)は「パラアンカーが船首の動きを制限し、傾いた船体が起き上がろうとする際の妨げになった恐れがある」と指摘する。船を安定させるためのパラアンカーが、横波を受けて逆に不安定な状況を招いたとの見方だ。 <手掛かり沈む> 事故当時、離れた海域で操業していたカツオ漁船のベテラン乗組員も「パラ泊中はエンジンを切らなければいけないから、突然の横波に対応できなくなる。風の向きとは別方向からも波が来る場所でパラアンカーを使うと、船首の向きが固定されて身動きが取れず、逆に危なくなるもケースもある」と話す。 救助された第58寿和丸の乗組員は「横波を1回受けて船が傾き、もう1回受けて転覆した」と証言。突発的に巨大波が起きる「三角波」が発生した可能性が指摘されている。 犬吠埼沖でも操業している巻き網漁船の乗組員は「現場は潮目がぶつかり、いろんな方向から波が来る海域で注意が必要」と言う。そうした場所でのパラ泊は安全だったかどうか。最大の手掛かりとなる船体とアンカーが深海に沈んだ中で、横浜地方海難審判理事所の事故調査は始まったばかりだ。 [漁船のパラ泊] 多様な船種の中で、パラアンカーで荒天をしのぐのは漁船ぐらいとされる。洋上にとどまる必要のない貨物船や旅客船はエンジンをかけたまま船首が風上に向くように低速で進み、しけを乗り切る。漁場にとどまり、しけが収まり次第、漁を再開したい漁船が船体を安定させるためにパラ泊を選択するケースが多い。パラ泊中はエンジンを切るため、燃料費を節約できるメリットもある。
2008年07月05日土曜日
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