神奈川県が全国初の制定を目指している「公共的施設禁煙条例」(仮称)への賛否両論が渦巻いている。飲食店やパチンコ店など娯楽施設での喫煙も罰則付きで規制されるためだ。意見募集に県内外から1782件が寄せられ、旅館・飲食業界やたばこメーカー、学会から議論が百出。目標の年度内制定までハードルはなお多い。
「県内全域が禁煙と思われ客が来なくなる」「吸わせろというクレームへの対応は大変」
9日午後、同県小田原市で開かれた県主催の意見交換会。有数の観光地・箱根などから集まった旅館業者約20人の「苦情」に対し、松沢成文知事は「条例があれば『ルールだから』と対応できる」などと切り返す。たばこ小売店や飲食店など影響が出そうな業界団体との意見交換は6回目だ。
たばこメーカーの危機感も高まる。10日にはフィリップモリスジャパン役員が県庁を訪れ、吸えるか否かを飲食店が決めて掲示するスペイン方式を提案。一方、日本癌(がん)学会は「国の対策に先鞭(せんべん)を付け画期的」と絶賛する文書を県に出した。
松沢知事にとって条例はマニフェストに掲げた看板政策だ。がん対策としての受動喫煙防止を目指している。
議論のたたき台は4月公表の条例案概要。病院、百貨店、飲食店など不特定多数が訪れる場所を規制対象の「公共的施設」と定めた。公表後1カ月の意見募集に「禁煙の居酒屋が出来たら通う」「罰則がなければ実効性がない」「娯楽場の禁煙は考えられない」「合法のたばこに罰則はおかしい」と両論が殺到。予想を超える数に「精査が必要」と県は条例案骨子づくりを6月から9月に延期した。
条例案骨子の公表後、再び意見募集を経て条例案をまとめる。成立の鍵を握る県議会。2、7日の厚生委員会で「受動喫煙防止を努力義務にとどめる健康増進法より厳しい規制はおかしい」「喫煙する権利の侵害では」と反発が相次いだ。
対象施設の範囲、分煙や段階的な導入を認めるか。松沢知事は「例外をどんどん作るとざる法になる」と話すが、一つ一つに決着を付けるのは容易ではない。【五味香織】
毎日新聞 2008年7月12日 15時00分