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  ▼ 記者の視点
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死因究明制度創設に反対する「一部」とは何か
日本医学会のアンケート結果を読む
2008.7.7

 本紙5月23日付の「ニュースの深層」を転用したブログを見つけた。診療関連死の原因究明制度創設に向けて、患者・遺族団体が開いた会見での「(制度に)反対しているのは一部のインターネット好きな医師だけ」との団体代表者の発言を取り上げ、「そうは思いません。あれほど不完全な案を使って医療安全調査委員会が設置されると医療は崩壊してしまうでしょう」と記述している。

 制度創設に向けた関連法案の通常国会提出見送りを報じたニュースでは、「医療界の一部の反発を受け、(厚生労働省が)慎重姿勢に転じた」との記述もあった。無責任な言い方だが、記者になって10年目を迎える今でも、こうした「一部」あるいは「大多数」といった概念を定義し切れていない。

◎「“みんな”巨人ファン」のうそ

 小学生のころ、クラス仲間の巨人ファンが苦手だった。クラスがすべて巨人ファンだと思い込んでいたからだ。

 周囲に巨人ファンが多ければ、自然と「みんなが巨人ファン」と思いがちになる。しかし、クラス全体を見渡せば阪神ファンもロッテファンもいた。全体から見れば巨人ファンも「一部」に過ぎないかもしれないのだ。

 いや、巨人ファン以外を「アンチ巨人ファン」とくくれば、むしろその方が多かったかもしれない。さらに言えば、本当の多数派は、「プロ野球なんてまったく興味がない」という人だったろう。

 話題を原因究明制度に戻そう。制度創設に向けて厚労省が示した第3次試案について、日本医学会が行った加盟105学会に対するアンケート(回答52学会)の結果は、「賛成」35学会、「条件付き賛成」7学会、「反対」5学会だった。

 この結果を「一部の学会が反対した」、あるいは「大多数の学会が賛成した」と見てよいのかどうか、大いに悩ましい。

 「反対」とうたった学会の中にも、一定の方向性に関しては合意している部分もある。逆に「賛成」あるいは「条件付き賛成」とした学会も、制度の細部についてはさまざまな意見がある。

 例えば調査委の設置先、届け出る事故の範囲、調査委から捜査機関への通知対象とされた「重大な過失」の定義などなど…。数字に換算すると確かに分かりやすく、ジャーナリズムもまた数字に弱いことは否めない。しかし、その過程でそれぞれの団体の温度差や細かい論点が飲み込まれてしまっていることには注意を払うべきだろう。

 アンケートの結果を踏まえ、日本医学会は「基本的方向性に賛成」との方針を打ち出したが、結局のところ「一部」の集合体だといえる。

◎「一部」を積み上げる議論に期待

 制度化をめぐる議論で、対立軸を見つけることは難しくない。例えば、制度化に慎重論を訴える医療界側対早期国会審議開始を求める患者団体側。医療界の中にも賛成派と反対派がいる。政府・与党案対民主党案という構図も見えてきた。

 ただ、何をもって「賛否」と判断するかはそれぞれの立場によって異なる。そう考えると、いくつもある対立軸も不明確なものであり、すべては「一部」が集まって現在のような構図を描いているというだけかもしれない。

 「一部」を排除した大政翼賛的な方法で物事を進めようとすると不幸な結果を招くことは、歴史が証明している。しかし、「一部」が頑(かたく)なにそれぞれの主張を繰り返し続けているだけでは、物事は先に進まない。

 たくさんの「一部」を高く積み上げてよりよい方向性を目指すという面倒な行為が、民主主義社会の理想を追求する上では必要不可欠なのだろう。(岩崎 知行)



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