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諫早湾干拓事業訴訟:国控訴 農相に法相かみつき混乱 官邸は関与避ける

 国営諫早湾干拓事業を巡る訴訟で、政府は10日、国に潮受け堤防の開門を命じた佐賀地裁判決を不服として福岡高裁に控訴したが、控訴期限直前に鳩山邦夫法相が開門を強く主張したことから、政府の対応が混乱しかけた。福田康夫首相の政治判断を求める動きも出たものの、官邸は農林水産省の判断に任せ、積極的な関与を避けた。「無駄な公共事業」の象徴とされる同事業に関する首相判断が、政権に与えるダメージを考慮したとみられる。

 「若林(正俊)農相が総合判断して対応を決める」。首相は同日夜、記者団に対し、対応を農水省に任せる考えを強調した。

 政府は早い段階から控訴に傾いていた。国は開門調査を命じた判決が不服なのであり、開門に応じるなら控訴の理屈も立たない、というのが農水省の論理。同省幹部は「国が和解に応じた薬害肝炎訴訟などとは性質が違う」と強調する。

 これに一石を投じたのが「環境派」を自任し、有明海に近い衆院福岡6区を選挙区とする鳩山法相だ。法相は10日、法務省で若林農相と会談し、開門を強く主張。これに対して、若林農相は「あとは首相が判断すること」と記者団に語った。農相は午後に首相官邸を訪れる予定となっていたため、首相の政治判断の可能性も取りざたされた。

 しかし、農相の訪問は直前に急きょ中止された。首相の政治判断と受け取られることを、官邸側が警戒したようだ。政府高官は「何でも官邸で解決することではない」と不快感を隠さなかった。

 結局、控訴を受けて同日夜発表された農相談話は「開門調査のための環境アセスメントを行う」との表現にとどまった。

 首相は行政の無駄な支出を指摘する有識者会議の設置を指示するなど、ここへ来て「無駄ゼロ」に向けた取り組みをアピールしている。それだけに政府の対応には、2500億円以上の税金を投じた同事業に対する国民の批判が再燃し、政権にはね返ることを懸念したとの見方も出ている。【行友弥、坂口裕彦】

毎日新聞 2008年7月11日 東京朝刊

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