原爆投下で壊滅的被害を受けた広島の街を空撮した写真が、広島県内の民家で見つかった。惨禍の記録写真を収集している原爆資料館(広島市)によると、米軍撮影とみられ、所蔵する約2000種類の中に同一カットはないという。資料館は「原爆被害の実相を伝える極めて貴重な写真」としている。
写真は縦約15センチ、横約11センチで、下部の白い帯に「THE CLOSE-UP AIR VIEW OF HIROSHIMA CITY」と記されている。現在の広島市中区八丁堀付近(爆心地から約900メートル)の上空から西向きに撮影。撮影時期は45年10月から46年にかけてとみられる。一面の焼け野原に、福屋百貨店や旧中国新聞社などの建物が確認でき、路面電車とみられる乗り物が走っている。
同県府中町の松尾邦彦さん=昨年12月に83歳で死去=宅にあった古いアルバムの最後のページに収められていた。遺品を整理中に見つけた家族の話では、アルバムは松尾さんの叔母の加藤美知恵さん=94年に死去=のものらしい。
美知恵さんの夫は原爆ドームから約400メートルの家に住み、前妻とその子どもは被爆死したという。戦後、美知恵さんと再婚し、夫妻は毎年8月6日、平和記念公園の慰霊碑に参り、灯ろう流しを欠かさなかったという。
原爆資料館が所蔵する当時の空撮写真は、45年10月に広島入りした米戦略爆撃調査団や日米合同調査団のものが多い。資料館は米公文書館などから写真を入手しているが、「未公開写真がまだ眠っており、その1枚である可能性が高い」という。説明の英文が付いていることから、当時の米軍関係の報告書などに掲載され、複写されたものとみられる。
加藤さんの写真の入手経路は不明だが、戦後間もない時期、流出写真が広島で占領軍向け記念品などとして売られていたともいわれ、資料館は「その1枚を入手したのかもしれない」と推測する。【牧野宏美】
毎日新聞 2008年7月7日 10時25分(最終更新 7月7日 11時10分)