福祉・介護

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生活援助:「使えない」 介護保険法06年改正後、サービス抑制進む

 調理や洗濯、掃除など、在宅高齢者を支える介護保険の生活援助が使えなくなってきた。特に家族が同居や近くにいる場合、必要なのに援助を打ち切られる人が少なくない。なぜ保険料を払っているのに、サービスを受けられなくなるのだろうか。【磯崎由美】

 「前は良かったのに、どうしてダメなんですか」。昨年、東京都世田谷区の女性(62)は両親を担当するケアマネジャーに訴えた。生活援助のヘルパー派遣をゼロにするという。ケアマネは言った。「(両親の)隣に住んでいるでしょ」

 女性は夫と2人暮らし。同じ敷地に住む両親は90代で、父は歩行困難、母はがんを再発した。女性自身も介護疲れで体調を崩し、通院中だ。

 その夏。女性の留守中に母が高熱を出した。体が不自由な父はエアコンのスイッチを入れられない。母は救急車で運ばれ危うく一命を取り留めたが、脱水症状で意識を失いかけていた。台所の鍋にはかびがはえていた。

 女性はケアマネを代えた。結局、母は要介護度が重くなり、今では毎日ヘルパーが来る。現在の担当ケアマネは「前任者は行政の目が厳しくなり自主規制したのだろうが、必要性を勘案せずサービスを切るのはおかしい」と憤る。

 ●国の通知後も

 生活援助は家族と同居する高齢者でも、家族に病気や障害、その他やむを得ない事情がある場合は利用できる。しかし06年の制度改正以降、国は軽度の人へのサービスを抑え、同居家族がいるだけで生活援助を認めない自治体が増えた。

 厚生労働省は昨年末、「同居家族の有無のみを判断基準として機械的に判断しないように」と都道府県に通知したが、改善されたとはいえない。介護系雑誌「月刊ケアマネジメント」が今年3月、ケアマネなどを対象に実施した調査(回答数182)では「必要な人は生活援助を利用できている」との答えは3割どまり。特に東京都内と近畿圏で制限が厳しい実態が浮かんだ。全額自費で利用する例も目立っている。

 ●判断、自治体ごと

 そもそも家族の「やむを得ない事情」とは何か。子がいても仕事に出て日中は独居状態の人や、2世帯住宅はどうなのか。国の線引きがあいまいなため、判断は自治体ごとに違う上に、ケアマネによっても左右される。

 不公平感をなくすため、独自に指針を作る自治体も現れた。川崎市は生活援助を提供できるかどうかのチェックリストを作成。事例も紹介し、線引きを分かりやすくした。また、東京都千代田区、渋谷区のように独自で上乗せサービスを提供する自治体も現れた。その結果、必要な援助を利用する際、都心の高齢者は安く、他の地域では高くなる地域格差も生じている。

 ●コムスンも契機

 事業者側がサービスを自粛する背景には、昨年のコムスン問題をきっかけに監査が厳しくなっていることもある。必要のない生活援助を提供したと見なされれば、不正請求として介護報酬の返還を請求されるからだ。

 介護保険は09年、改定の節目を迎える。気が付いたら、また負担だけが増えている--。そんな結果にならないよう、行方を注視したい。

 ◇「自立支援につながる例多い」

 生活援助については「家政婦代わりに使われては困る」との指摘もあるが、立命館大学の小川栄二教授(社会福祉援助技術論)は「介護が必要な人の家庭に入って行う家事は、体調や栄養状況を把握するなど専門性が高いサービス」と、重要性を指摘する。

 そのうえで「食事を作る意欲すらなかった人がヘルパーと台所に立つことで、生きる意欲がわき、結果的に自立支援につながる例も多い。必要な生活援助を提供し重度にならないようにすることこそ、保険給付を抑えることにつながる」と、生活援助カットで給付を減らそうとする傾向を疑問視する。

毎日新聞 2008年7月6日 東京朝刊

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