くらし
道路より人命優先 原則無料、キューバの医療
医療費は原則無料で平均寿命は先進国並み。各国が社会保障費の重圧に悩む中、そんなキューバの医療制度が注目を集めている。マイケル・ムーア監督の映画「シッコ」では、米国で制度から見放された患者が、このカリブ海の社会主義国で治療を受けるという場面もあった。このほど神戸で開かれたキューバ医療のフォーラムなどから背景を探った。(武藤邦生)
キューバの労働者の平均月給は約十七ドル(約千八百円)。社会基盤は電気、水道など最低限で、街灯すら設置されていないという。「道路の現状などだけ見れば、日本とは比較できないほどの“貧乏国”だ」と、「世界がキューバ医療を手本にするわけ」などの著書がある吉田太郎・長野県農業大学校教授は指摘する。
キューバ医療の特長の一つがファミリードクター制だ。一人の医師が六百人から八百人程度の健康を管理し、予防医療に務める。専門的な治療が必要な場合はポリクリニコ(総合診療所)や総合病院で、無料で受診できる。平均寿命は先進国並みの七十七歳。二月に同国を視察したろっこう医療生協(神戸市灘区)の村上正治医師は「人の命を最も大切とする哲学がある」と実感した。
ただ、医薬品や医療機器などは不足している。一九八九年のソ連崩壊後、大幅に輸入が減少し、米国による経済封鎖という逆風もある。「最新機器はほとんどなく、古いタイプを修理して使っている」(吉田教授)という。村上医師によると、そうした状況を反映してか、鍼灸や薬草など代替医療も積極的に取り入れているという。
原則無料の医療システムの生命線となっているのは、実は人件費の抑制なのだという。「医師は尊敬される立場にあるものの、給料は農民以下」と吉田教授。それでも多くの医師は納得して働いているという。「道路よりも医療。つまり社会基盤よりも人命を優先することが社会全体に徹底されている。『豊かさ』のとらえ方が日本とは違う」と話す。
“医療大国”として援助にも積極的だ。二〇〇五年現在、六十八カ国に二万五千人の医師を派遣しているほか、貧しい患者を自国に招き、無料で治療している。神戸でのフォーラムで講演した、革命の英雄チェ・ゲバラの娘アレイダ・ゲバラ医師は「大きな挑戦だが、人類の問題を解決できるのは、爆弾や戦争ではない。こうした医師たちの力ではないか」と述べた。
また医療技術を農業や外貨獲得にも活用。細菌類からバイオ農薬やバイオ肥料を開発し、有機農業に取り組む。観光面では、外国人患者が治療の合間に観光を楽しめるよう「ヘルスツーリズム」を展開している。
カリブ海地域の観光に詳しい江口信清・立命館大教授は「こうした手法は東南アジアでも広まっているが、キューバが先進例」と話す。直行便が飛ぶカナダ、欧州などから、年間二百万人が訪れるという。
一九五九年のキューバ革命から約半世紀、高級品の所持や宿泊など規制緩和が進んでいる。江口教授は「国民の間で生活に格差が生じ、それが表面化しつつある」と指摘する。今後、格差の広がりが、医療制度に影響することも考えられるという。
(7/5 10:08)
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