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[スペイン、44年ぶりの欧州制覇]粕谷秀樹が語る、スペインの勝因
文:粕谷秀樹 写真:Maurizio Borsari Date:2008.6.30
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「準決勝、決勝は比較的安心して見ていられました。イタリアとの試合がキーだったんでしょうね……」。粕谷秀樹が語る、スペインの勝因。

「個人的には、『フットボリスタ』でも書いたんですけど、GL2試合まで全チームを見て、『スペインいけるぞ』と思ったんですよね。選手層、総合力、そしてチームの成熟度が飛び抜けていた。それが2試合を消化した段階ではっきり見えたし、逆に調子が出ないチームは大会中に試行錯誤していた」

決勝終盤、差が出た監督の采配の妙
「それに加えて監督の采配。ほんと、采配の妙でした。決勝でも監督の差が終盤出たでしょう。勝負に関係はなかったけれど、負けているチームの監督より早く3枚目のカードを切ったことの重要性(ある意味博打)。あれをできる監督なんてそういないですから。あれが終盤のドイツの反撃の可能性を消し去りましたね」

「これ、わかる人にはわかってもらえると思うんですけど、感覚的なものでもあるので少し難しいんですよね。コーチをしていたとき、うちの監督が『今日の試合では相手の監督より先に動くことだけを考える。だから、お前は相手のベンチの動きをずっと見ていてくれ』と言われたことがあるんですよ。それで見事に天敵のチームをしとめた経験を思い出しました」

個人的MVPはセナとカシージャス
イタリア戦でのPKストップ、チームメートを鼓舞する姿勢など、カシージャスは、セナと並んで、チームの要だった。
(C)Maurizio Borsari
「チームとしてみたときに勝因はやっぱり守備、そしてセナの適応力。個人的に選手からMVPを選ぶならセナとカシージャスですか。まあ、2人だけじゃなく23人全員選びたいですけど……」

「負けるならあのイタリア戦だったと思うので、本当にあのPKは大きかった。ありがとう、イケル。アラゴネス監督に『人間としてもキャプテンとしても10点満点』と言わしめただけありますよ」

「日本で放送されていたかどうかはわかりませんが、イタリア戦のピッチ入場前、ロッカールームから出てきたイケルが『おれたちはこの時のために2年間やってきたんだ。その思いを忘れるな。そして多くの人のためにやってやるぞ』と叫んでたんですよ。そして、それを周囲の選手が何げにうなずきながら聞いていたんですよね。試合前、あの緊張した場面であの状況をつくり出せるんですから、『こりゃ、すごいチームになったもんだ』と感心しました」

「PK戦で誰よりも落ち着いていたのがイケルでしょう。ディ・ナターレのPKをストップしたあと、喜びを爆発させるどころか蹴りにくるセスクに『トランキーロ(落ち着け)』を連発してましたし、あの精神力、メンタルコントロールは尋常じゃなかったですね」

「おかーちゃんは緊張のあまり半分気を失っていたらしいですが、これぞ“経験”なんでしょう。若いときからレアル・マドリー、代表のゴールマウスを守ってきた経験。“若い、若い”と言われてましたが、決勝のスタメンを見ても11名中8名が下部カテゴリーか所属クラブで欧州or世界タイトルをとってるんですよ。とってないセスクも下部カテゴリーで2度決勝、アーセナルで1度CL決勝を経験してますし(そういう意味でバラックより先に“シルバーホルダー”抜けできてよかった、よかった)」

「ちなみに、今大会スペイン国内的に最大のヒットはイケルのおばーちゃんでしょうね(笑)。どの局もイケルおばーちゃんの自宅まで行って取材してたんですが、試合では飛びはねて「イケーーール!!」って連呼してたあの姿……。愛嬌があって、今やスペイン国民中のアイドルとなってます……」

活躍目立ったバレンシア勢
「バレンシアの選手もよくやってくれました。ビジャも得点王をとったし、シルバはとにかくよく躍動したし、マルチェナもほぼパーフェクト。アルビオルもいい経験をしましたね。ギリシャ戦でのFKからの失点なんかは今後の糧になるでしょう(ハリステアスをマークしていたのはチョリ)。攻撃側がオブストラクション気味に体を当ててフリーマンをつくるのはセットプレイの技術の一つですから。ああいうディテールはこうした大会では勝負の鍵を握りますから、アルビオルとしては覚えておかないといけないこと」

「ビジャはシュート精度のみならずプレイ精度が高いということを世界的に披露できたかな。枠内シュートのデータが66.7%でチームトップ。パス成功率もFWにしてはかなりいい73%。たとえば、トーレスはたしかにフィジカル、スピード、高さがあるんだけれど、パス成功率がチーム最下位の49%。ポストプレイのミスなんかも目につきましたし、もう少しプレイ精度を上げてもらいたいですね」

「まあ、そうはいってもマスコミ(ファン)受けするのはトーレスなので今後も“スペインのエース”って呼ばれることでしょう。ということはバレンシアにいる限り、世界的な“クラック”になることが難しいということなのか!?(苦笑)。シルバ、ビジャも移籍したらものすごい注目を浴びることになるでしょうしね。昨年、バラハが『シルバがバルサでプレイしている選手なら、とんでもないことになってると思う』と言ってましたが、同感です。彼らにとってもバレンシアでのシーズンは苦しいものだったし、ようやくそのがんばりへの報いがきたということかな」

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