警察庁のデータを基に、学識者らが自殺者の特徴を市区町村単位で整理した「自殺実態白書」がまとまった。原因や動機、職業などについて自殺者数が多い順に示し、地域の特徴を浮き彫りにした。市区町村や警察署単位で自殺の実態が全国規模で判明したのは初めて。また自殺の理由は一つではなく、平均で四つの「危機要因」を抱えていることも分かった。関係者は行政などの自殺防止対策の推進につながると期待している。【玉木達也、清水健二】
学識者と弁護士、NPO法人代表らで作るプロジェクトチームが、04~06年の自殺者計9万7032人を分析。各警察署で起きた自殺のデータを、市区町村単位に再集計した。メンバーが4日、自殺問題を担当する岸田文雄・内閣府特命担当相に白書を提出し、対策の充実を求める。またNPO法人「ライフリンク」(清水康之代表)がホームページに4日、公開する予定だ。
全体では、遺書のあった人の動機は(1)経済・生活問題(2)病苦など(3)家庭問題の順に多かった。
職業別では(1)無職(2)被雇用者(3)自営業者。警察署単位では(1)山梨県警富士吉田署(2)福岡県警早良署(3)青森県警青森署の順だった。
各署ごとの傾向は、全体では6位の愛知県警豊田署(豊田市など)は被雇用者では1位。17位の北海道警旭川東署(旭川市など)は「病苦など」が1位だった。自治体別では、東京都千代田区では40代の被雇用者の男性、大阪市西区は40代の自営業者の男性、熊本県合志市では40代の無職の男性が最も多いなど、地域により自殺者の傾向に違いがあった。
清水代表は「市町村関係者から、自殺の実態が分からないから具体的な対策ができないという声がある。白書を自殺対策に生かしてほしい」と話している。
自殺の理由は一つではなく、平均で四つの「危機要因」を抱えていることが分かった。
自殺した305人の遺族や知人から聞き取り、背景事情として家庭や健康、経済問題などにかかわる68項目を「危機要因」ととらえて調査。その結果、自殺時に危機要因が一つしかなかった人は4%だけで、平均で四つの危機要因があった。
危機要因は(1)うつ病(2)家族の不和(3)負債(4)身体疾患(5)生活苦(6)職場の人間関係(7)職場環境の変化(8)失業(9)事業不振(10)過労--の順に多く、上位10項目で全体の約7割を占める。
それぞれの要因は互いにつながっており、会社員なら「配置転換→過労や職場の人間関係悪化→うつ病」、経営者なら「事業不振→生活苦→多重債務→うつ病」といった経路が典型的だった。失業といじめ、アルコール問題と家族の死亡など、因果関係がはっきりしない要因が連鎖しているケースもあった。
毎日新聞 2008年7月4日 2時30分