深谷市に住む元暴力団組員と妻が、接骨院に行ったとうその申請をして、施術費などを不正受給していたとされる生活保護法違反事件。県警に逮捕された韓国籍で深谷市上野台、稲川会系暴力団元組員、崔鳳海(チェンボンヘ)(60)と妻育代(44)両容疑者が市から受け取った生活保護費は1944万円に上っていた。市は「恫喝(どうかつ)され報復が怖かった」とする一方で「不正はまったく知らなかった」と言うなど、歯切れが悪い弁明を繰り返した。【小泉大士、町田結子】
市は、崔容疑者が03年3月に交通事故で受け取った保険金2200万円などを隠していたことが今年4月になって分かったことから、「全額が不正受給だった」としている。
崔容疑者らの逮捕を受け、市は27日午前に茂呂敏行福祉事務所長や増野誠福祉部次長らが会見を開いた。
市によると、崔容疑者らは03年に生活保護を申請。当初からライターを投げつけたり、「なめとんのか」と大声を出すなど、恫喝的だったという。
崔容疑者らは、偽造した接骨院の領収書を市に提出し、「立て替えたから金を払え」と要求。受給者に直接現金を支払えないケースなのに、「脅されて指導が徹底できなかった」と対応の不備を認めた。
また、医療機関にかかる場合、受給者には医師の「給付要否意見書」を3カ月に1度提出する義務があるが、市は崔容疑者から提出を拒まれると、そのたびに見逃してきた。
市は「組織での対応がなかった。担当者任せになっていた」と釈明。16日に設置した「内部調査委員会」で問題を話し合い、7月末に報告書をまとめる予定という。その後は有識者を含む外部委員会に諮り、再発防止策を検討する。会見の最後まで、市民への謝罪の言葉はなかった。
県は07年10月末、市に対し生活保護法に基づく年1回の事務監査を行った。その際、崔容疑者の通院先が遠く、通院回数も不自然に多かったため、接骨院でこれだけの治療を受ける必要があるか主治医に確認するよう指導したという。
県社会福祉課は「遠隔地での治療はできるだけ控えてもらっている。回数が多いうえ、治療を受けた場所が遠方で、明らかに不自然だった」と話す。
今年1月末には治療内容の明細である「施術券」、施術師や医師の同意を記す「給付要否意見書」などを市から預かり調査。市の担当者から説明を受けたり、警察への告発を指導する一方、厚生労働省にも調査経過などを報告していた。
また、県は06年3月の厚労省の通達を受け、07年1月に県警との間で、生活保護の受給申請者が暴力団員と疑われる場合、情報交換する協定を結び、県内の各市の福祉事務所担当者の研修で、地元警察署と同様の協定を結ぶよう指導したという。
社会福祉課は「市がもっと早く主治医に治療の要否を確認するべきだった」と話した。
深谷市上野台の崔容疑者の自宅前には、27日午前6時20分ごろ、県警捜査員が到着。崔容疑者は任意同行を求められ、車両に乗り込んだ。事件を聞いた近所の自営業の男性(69)は「(崔容疑者は)威圧的な感じはなく、すれ違えば会釈してくれる礼儀正しい人だった」と驚いていた。
新井家光深谷市長は27日夕、「告発した市として、今回の事態を真摯(しんし)に受け止め、内部調査委員会で原因究明と再発防止の措置をとりたい」とするコメントを出した。
毎日新聞 2008年6月28日 地方版