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教育基本計画 実現の道筋が見えない

7月2日(水)

 「教育立国」を目指すのに、肝心なことが抜け落ちている。政府が初めてつくった「教育振興基本計画」だ。

 改正教育基本法に基づいて、10年先の教育のあり方を見すえて、5年間の教育政策の目標と実現への道筋を示している。「欧米主要国を上回る教育の実現」を掲げ、力を入れることとして、小中学校の新学習指導要領による学力の向上、幼児教育の無償化の検討、小中学校1万棟の耐震化の促進などを挙げた。

 だが、その裏付けとなる人材と予算の手当てが、基本計画に盛り込まれていない。これでは実現はおぼつかない。

 「ゆとり教育」から転換して、授業時間も教える内容も大幅に増えた新指導要領は、来年春から一部前倒しして実施される。このままでは、学校現場の負担が増す一方だ。文部科学省は教育予算を拡充するために、具体的な手だてを講じなくてはいけない。

 文科省は、5月に発表した基本計画案では数値目標を掲げていた。国内総生産(GDP)に対する教育投資の割合を、5・0%を超える水準まで引き上げ、公立小中学校の教職員の数も2万5000人程度増やす、というものだ。

 それを最終的に引っ込めたのは、財務省の反対を押し返せなかったからだ。歳出を抑えたい財務省は、教育目標は投資の額でなく、学力の向上など成果で示すべきだ−と主張した。

 投資を増やすことで、教育をどう変えるのか。財務省を説得できるだけの具体像が、文科省側に欠けていた面は否めない。ただ、教育への投資は、短い間にその結果が現れるとは限らない。

 文科省が主張した「GDP比5%」の目標は、経済協力開発機構(OECD)諸国の平均値でもある。日本は現在3・5%、下から2番目だ。経済発展の恵みを、公教育に振り向けてこなかったことは明らかだ。

 少子化が進むなかで、子どもたちはより少人数の学級で、先生のきめ細かな指導を必要としている。学ぶ環境を整えていくために、厳しい財政状況であっても、教育への支出を優先すべきだ。

 残念なのは、中央教育審議会の姿勢だ。4月にまとめた基本計画に向けた答申が、そもそも数値目標を示すのを避けていた。財務省の反対を考慮したためという。

 省庁の言うままに答申するなら、中教審の存在価値はない。本来の役目に立ち返って、広い視野から、現場の抱える問題にこそ、目を向けてほしい。