本編第5章 55話「M県高校生献血集会! 3 マチ、お疲れ様…… 」 [転落教師 本編]
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テル以上に付き合いの長い教え子というと、友香がいる。
H小学校からS台小学校に異動したのが平成9年の4月だが、その後も友香は手紙をくれたり、遊びに来たりしてくれていた。あの離任式の時、たくさんのポケモンが描かれた絵を贈ってくれた友香は、この高校生献血集会にも友人を連れて参加してくれていた。
コスプレ仲間のひいちゃんと共に、献血センターに駆けつけてくれた友香。
マチが、親の監視をかいくぐって俺に会いに来てくれた4月のあの日以来、友香とマチはメールでやりとりしていたらしい。そんな友香も、「マチちゃんってイイ子ですね。」とマチに好感を持ってくれていた。
T城高校、S釜高校、S釜女子、T木学園等々、いろいろが高校から協力者が集まってくれた。
すでに10人以上の若者たちがこの献血集会に集まってくれていて、マチと俺の企画はまずまずの手応えを感じながら、午前中を終えた。
「みんな、帰る前に一休みしていかないか?」
俺の申し出に、教え子達もついてきてくれた。
駅の外れにある「スターバックス」にたくさんの高校生を引き連れて入る。
ちょっと気がかりだったのは、杉山も一緒だったことだ。マチが俺と来るから、それに着いてきたというわけだ。
さらに気に入らないのが、全員に一杯ご馳走したわけだが、杉山はお礼の一言もない。初対面の成人に対してあまりにも礼儀を欠いたクソガキの態度に、内心俺はムカついてきていた。
中学時代は不良チームの下っ端だったというこのガキ。そのチームのリーダー格2人に格闘訓練をつけてやり、何度か俺に力試しに挑んできた際にも、片手で捻ってやったのが俺だと知っているのだろうか?今この場で頭蓋骨を軋ませてやってもいいのだが、それではマチに申し訳ない。
そして、杉山の居る「ポジション」も気に入らない。常にマチの隣にいようとするのだ。それに笑顔で応じているマチに対しても、俺は複雑な気持ちでいた。
「ほら、杉山ちゃんはマチが相手しないと、話せる相手も全然いないでしょ?勘弁してやってね。」
センター内でマチからそう言われてはいたが、こんなへろへろが俺に対して横柄な態度でいるのは正直ガマンに一苦労だ。てめえがシッポふってたチームのボスですら、俺にとっては一瞬で叩きつぶせるレベルなのだ。お前などまさに「指先一つでダウンさ~」なんだぞ……。
スタバで談笑する高校生の中、時折見せる俺の形相を察していたのはマチだけだった。
「ゴメン、エイジ。」
マチの目は明らかにそう告げていた。まあ、そういうことなら、今日一日は勘弁してやろう……。
ドストエフスキーの「白痴」には、嫉妬の形も描かれているというが、物語中ではその嫉妬は、自己犠牲となって終結していくという解説がある。
今俺が感じているこの感情も「嫉妬」なのだろうが、俺のこのもやもやがどんな形で解決されていくのか、今の俺には全く予想もつかない。
嫉妬の相手が杉山ごときならいいのだが、そのうち、マチが本気で愛し、求める男が現れたとき、俺はどうやってその時の感情を処分するのだろう。
そういえば「白痴」も、ぐちゃぐちゃの三角関係を描いたものだ。マチは、そんな三角関係になったとき、どんな行動をとるのだろうか……?
午後、マチの友人が献血に来てくれるらしい。もちろん俺はその場に残ったが、なぜか杉山、テル、キョウコもそこに残った。
キョウコはもともとそのつもりでいてくれたのだが、テルはよほどマチが気に入ったらしい。杉山に関しては、献血というよりマチと一緒に過ごすことがそもそもの目的だったのだろう。
なんともいえぬ空気が流れる中、高校生献血集会は無事(?)に終了した。
この日集まってくれたのは19人。学校の数で言うと、なんと11の高校から生徒が集まってくれたという結果になった。
センターの人たちも、「人数よりも、11の高校から集まったということが驚きですね。」という感想が聞かれた。通常、一つの学校から集団で参加するという例はあっても、学校を越えて献血者が集まるということはこれまでなかったことだという。
例えば、これがみな制服姿で集まったら、ビジュアル的にもえらいことになっていただろう。制服のファッションショーになりそうだ。
マチの願いは、まず叶えられたとしていいだろう。この子の、「人の為に何かをしたい」という思いは、今日献血という形で具現化された。
そして、その呼びかけに応じてくれたM県の高校生達19人。その誰もが、「またやりたいね!」という言葉を残してくれた。
若者は、エネルギーに溢れている。きっかけさえあれば、こうして自分の血を分け与える活動にも、熱く参集してくれるのだ。マチと俺は、そのきっかけを作ったに過ぎない。それでも、マチの喜びは相当なものだった。
だが、マチは相変わらず杉山にべったりマークされたままだった。
午後3時過ぎ。ようやく最後のメンバーの採血が終わり、解散となったときだった。
T北本線の改札で、テルと杉山がマチを引き留めている。一足先に改札を通ってしまった俺だったが、しばし距離を置いてその様子を見守った。その中にキョウコもいたのだが、2人の男は明らかにマチになにやらしきりに話しかけている。
この日は、マチとキョウコは俺と一緒に一旦俺の自宅に帰ることになっていた。反省会というか、次回の計画などについても話そうということになっていた。それにもう一つ、マチとキョウコ同席で、ある教え子と会うことにもなっていたのだ。
杉山にしてみれば、今日一日一緒にいたのだから、このまま自分と一緒に帰ってほしいのだろうが、さすがにこれ以上の譲歩は出来かねる。
「ごめんね。」
というような仕草で改札を通るマチとキョウコ。
俺はテルに、「またな」と声をかけた。
残念そうな表情のテルだったが、「ええ、また!」と片手を上げて俺に応えた。
帰りの電車で、少々ご機嫌斜めの俺。
大人げないとは重々承知しているが、やはりいくつになっても「やきもち」という感情は如何ともしがたい。
70過ぎの老人が、嫉妬で人殺しするようなこともあるのだ。「恋」というものは、年齢に関係なく人間の感情の中で大きな波を立てるものなのだ。
「なんか杉山君がしつこくてねー。あれはかなりマチに惚れてるよ。」
キョウコには、俺の神経を逆なでするつもりなど微塵もないが、このストレートな「感想」が彼女の長所であり短所だろう。
「やべ」という表情で俺に目配せするマチ。だが、その顔色が今ひとつよくない。
やっぱりだ。今日一日のコイツのテンションは、いうまでもなく常に超高空飛行だった。
「疲れた、だろ?」
「うん……少し。」
「少しじゃねえよ。ったく、馬鹿が。」
座れる席がなかったので、俺の横で壁に寄りかかるマチ。
「大丈夫?マチ。」
「うん……ごめんねキョウコ。やっぱりはしゃぎ過ぎたみたい。」
この頃、マチはキョウコを呼び捨てにするようになっていた。もちろん、キョウコもその方がいいと了解済みだ。なぜかマチは、年上の友人を求める傾向が強かった。実際、今日集まったメンバーの中にも、S台中学校出身の同級生は一人もいなかったのだ。
マチの中で、やはり中学時代はまだトラウマなのかもしれない。わざわざ学区外の高校を受験したのも、それが理由だったのだから。
「ね、マイケル。家で少し休ませてあげたら?」
「そうだな。約束の時刻まではけっこうあるし、一度横にさせるよ。」
結局献血は出来なかったキョウコだが、俺にとってもマチにとっても、この子は支えとなってくれる大切な存在だ。今も、俺と二人きりでいるよりマチは気が楽だろう。マチにとっては、「恋愛」というカテゴリの中では俺も杉山も似たような存在なのだから。
駅から俺の家までは、キョウコにマチを支えてもらった。俺は荷物係だ。400㏄抜いている俺もちょっとパワーダウンだが、マチに比べれば消耗は小さい。それよりも、自分より一回り大きいマチを支えるキョウコが心配だ。具体的重量には触れないが、細身145センチのキョウコが、がっちり158センチのマチを担げるわけがない。
無事俺の家にたどり着いたマチは、そのまま俺の部屋で横たわってしまった。
「ちょっとお腹痛い……。」
12月の寒空のもと、何時間もプラカードを持って献血を呼びかけたのだ。相当体も冷えたのだろう。
暖房を全開にし、毛布を掛けてやると、ようやくほっとしたように目を閉じて、体を丸くするマチ。
「あたしなんて中にいても寒かったからねー。マチ、頑張りすぎなんだよ。」
「んー……でもマチが呼びかけ人だから……。」
猫のようにぐたーっと横たわるマチ。ホントにコイツは頑張りすぎだ。
「どうする?今日の約束、キャンセルするか?」
「ううん。せっかく2人も教え子さんが会ってくれるんだから、行くよ。マチが居た方が話も信じてもらえるし。」
M県教育委員会とのケンカは終わってはいない。マチは、今なお教え子達との話に参加してくれるのだ。
「とにかく、今日はお疲れさん。成功、だよな?」
「うん……たくさん集まってもらえたしね。みんなまたやろうって言ってくれたし……。」
「で、どうする?またやるのか?」
「うん。出来れば、これからずっと続いてほしいんだ。マチが高校卒業したら、誰かに後を継いでほしいの。M県の高校生達が献血を始めるきっかけとしてね、ずっと続いてほしいの。」
まったく、とんでもないことを考えたものだ。確かに、こんな企画が年に何度か行われ、M県の名物にでもなれば、全国にこの活動が広まることだって有り得る。そうなれば、血液不足の問題も一気に解決に向かうかも知れない。
「大したモンだな、お前は。」
ぽんぽんと頭をなでると、ほっとしたように寝息を立てるマチ。
俺とキョウコは、そんなマチを起こさないように、今日一日のことを静かに語り合った。
教え子との会談を終え、2人をし%%%台に送る。
キョウコを自宅近くで下ろした後、俺は近くの駐車場に車を停めた。
「すまんな、マチ。献血たぁ関係ないんだが、杉山はどんだけお前を追っかけてるんだ?」
「ん~、エイジの次くらいかな。」
それを言われると辛いんだが。
「でもねぇ……、杉山ちゃんとはそういう気持ちにはなれないね。中学時代から何度もアタックされてるけど、なんかほら、近くに来たい来たいってオーラ出まくりだから。」
「それ言ったら、俺も同じじゃねーか?」
「んー。でもね、エイジはマチのこといろいろ知ってるでしょ?知ってて、こうして大事にしてくれるしね……。そういう点で、特別だよ。」
特別……か。ちょっと微妙な気分だ。それでも、俺は「男」としてマチに受け入れてもらえてはいない。
ずっと、このままの状態が続くのだろうか?
「それとね……ほら、改札でちょっとあったでしょ?テルさんがね、なんか半分告白みたいに、マチのこと気に入ってくれたみたいに話してたよ。」
「やっぱりそうか……。アイツが本気で来たら、強力だなぁ。」
「でも、今日でまだ会ったのも2回目だしね。いい人だとは思うけど。だって、エイジも付き合い長いんでしょ?」
「ああ。お前よりテルとの付き合いの方がずっと長い。停職食らったときも一番にメールくれたのはテルだったしな。」
しばらく、車中に二人きりで、とりとめもない話を交わす俺たち。
「マチはね、こんな話が出来るエイジとの仲が大切なの。他にはいないしね。こんな風にだらーっと何でも話せる人って。」
「俺はそこからもう一歩進みたいんだがね。」
「あはは!それはまだダメだよ。でも、今のところエイジが一番そこに近いね。」
俺は、マチの力になれているのだろうか?もっともっと、コイツを笑顔にしてやりたい。俺のくだらない運命に巻き込まれたこの少女に、安らげる時を贈ってやりたい。
俺とマチの共同企画、高校生献血集会。
「第1回」と呼んでいいだろう。俺もマチも、「次」を考えていたのだから。
別れ際、俺はマチに言った。
「次は、もっと集めようぜ!!」
「もちろん!今日はありがと、エイジ!」
暗がりに消えるマチの後ろ姿を見送りながら、大きく一つ息をつく。
次がいつになるかわからないが、俺の中には、「次」を実行するに当たってすでにいくつか策があった。それも、マチと一緒に進めていこう。
平成15年もあと半月で終わろうとしている。
俺にとって人生最悪と思えた一年だったが、この後わずか半月ほどの間にまだ怒濤のような展開が待ち受けていることなど、この時は知る由もなかった。
本編第5章 56話「スターライトウインク 」に続く。
GUNBUSTER!!
と目にして反応する人は、今どのくらいいるもんかな?
「トップをねらえ!」てアニメの主役巨大ロボット。
エヴァでも有名な庵野監督のOVA作品。飛鳥エイジが大学でごそごそやってた頃に出会った作品ですね。
寮住まいの怪人……あ、いや先輩が「おもしれーからみてみろ!」と強烈に進めてくれたんだが、これがなんか妙にはまってしまって。
作品としてもおもしろいんだけど、それ以外にもいろいろ接点あるんだよね。
大学4年生で教育実習に出たとき、その小学校でガキどもからつけられたあだ名が「ガンバスター」。
なんで??
お子様方に言わせると、「腕組んで校庭に立ってると、他の先生より偉そうだから。」だと。
依頼学校ではずっとガンバスター。あの頃は小学生でも知ってた作品なんだよね。
一応「2」も作られたけど、みてないな……ちょっと絵的にね……。
もう一つは
平成4年に正面衝突事故起こしたときに、車でかかってた曲が「トップをねらえ!」だったりします。
あん時は死ぬかと思ったね……。
車はお互いに大破だし、事故の直後目に入ったのは、くの字にひん曲がったハンドル。もちろん頭突きでそうなったわけだが、「こりゃ頭もイッたな……」と死を覚悟したっけ。
駆けつけた救急車の隊員も、無線で「顔面挫傷!!」とか叫んでたし。
搬送された病院で診断受けたら
「鼻血です。」
は?
骨は?顔面の骨は??
「ハンドルに強打した額にアザがありますがそれだけです。」
で、結局その日は自力で立って、タクシーで帰宅。
次の日大きな病院で精密検査受けたら
「打撲と擦過傷」
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車2台がぐっしゃぐしゃになった事故で打撲と擦過傷か……
運が良かったんだね!
で次の日には出勤(!?)
当時の腐れ校長から真っ先に言われたのは「よかったね!これで通信簿書けるね!」(実話)
殺すぞ?
そしてその日のうちに、もう一人の被害者のお見舞い
はい、お見舞いです。
全く同じ条件でぶつかった相手の方は、3週間の入院。全治2ヶ月。腰と膝の骨がいかれて歩けなくなってました。
ちなみに
大きい声ではいえないんですが、飛鳥の車
シートベルト壊れてました。
頑丈に生んでくれた親には感謝してます。
事故の瞬間に耳にこびりついた「トップ」のテーマも、忘れられませんね。
懐かしいものを片っ端から整理してたら出てきたんで。
今は、先頃なくなったアカデミー俳優、チャールトン・ヘストンの「ベン・ハー」みてました。
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