以下の内容は私が主催する現代先端国際問題研究会で2007年7月にその分野の研究者に発表していただいた講演の議事録。
航空・事故調査委員会は、2007年6月28日、同委員会編『事故調査報告書−西日本旅客鉄道株式会社福知山線塚口駅-尼崎駅間列車脱線事故−』(RA2007-3-1)を公表(本文263頁、図表込みの全体約300頁)。
本文はhttp://araic.assistmicro.co.jp/railway/report/RA07-3-1-1.pdfで参照可。
事故調査委員会は、事故直前の乗客の重心移動状況の調査や多くの運転士へのアンケート調査等、綿密な調査・検討を実施。しかし、脱線メカニズム解明のための実規模実験を実施していない。
脱線メカニズム解明はコンピュータ・シミュレーションに全面的に依存。計算結果の信頼性は採用したコンピュータ・プログラムの性能に左右される。しかし、信頼性証明の記載がない。よって、計算結果に含まれる誤差が推定できない。
しかし、高い信頼性があるとして引用する。計算条件は、一両目と二両目の台車振動特性等の車両全体の詳細なデータや乗客の重心移動まで考慮。
一両目だけでは、時速105km/hで脱線しないが、時速110km/hで脱線。二両目だけでは、時110km/hでは脱線しないが、時速115km/hで脱線(表42,p.186)。
よって、事故直後に公表された脱線直前の時速105km/hから、脱線の可能性に対し、確実な判断はできなかった。できたと言うのは事故報告書が出た後の後づけ。
時速116km/hという数字は、事故調査委員会によって、事故後、かなり経ってから出されたもので、当時は、分かっていなかった。脱線直前の時速を105km/hから116km/hへ変更したのは運転席速度計表示の数パーセント過小表示に起因。
報告書には、脱線原因について、「速度超過に起因する超過遠心力によるものと推定される」(p.225)と記されている。コンピュータ・シミュレーションに依存しているため、断言できていない。事故時のすべてを忠実に模擬した実規模実験の実施を提言する。
車両構造改善策については、多くの犠牲者を出した二両目の破壊状況の詳細な調査から、「少しでも車体断面が菱形に変形しにくいような配慮が被害軽減に有効であり、車体側面と屋根及び床面との接合部の構造を改善するなど、客室内の空間を確保する方策について検討することが望まれる」(p.233)と記されている。これは常識論。
車両メーカーが現実的な脱線を想定した車両設計を実施していたら、死者半減可能。脱線事故は、第一に、JR西日本の工学的安全装置の設置遅れや運転士の不注意な運転操作に起因するが、第二に、車両メーカーの技術力欠如も無視できない要因。
鉄道分野の安全性の考え方と工学的安全対策は、新幹線を除外すれば、非常に遅れている。優先事項は事故対策。JR西日本等が主張するような人間の注意力に依存するやり方は、半世紀前の時代遅れの安全論で、最近数十年は、ヒューマンエラーやマン・マシン・インターフェースの問題まで踏み込んでいる。
以下、略。