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安全審査で褶曲構造断層はなぜ考慮されなかったか

2008-03-24 14:15:19 | Weblog
以下の内容は私が主催する現代先端国際問題研究会で2008年3月にその分野の研究者に発表していただいた講演の議事録。

1978年に改正された耐震指針には「褶曲構造にも十分注意すべき」と明記されていた。しかし、実際の安全指針に反映されたのは、2000年以降に実施された北海道電力泊3号機から。

空白の20年間が存在。なぜ、新たな知見が反映されなかったのか。

変形地質学研究者の証言に拠れば、「1980年代には褶曲構造を断層と評価するのは常識だった」とされている。では、安全審査の際、誰の判断・指示により、形骸化されたのか、議事録の吟味等から、明確にしておく必要がある。
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新潟県中越沖地震の「引き金」断層はどこ

2008-03-24 13:29:18 | Weblog
以下の内容は私が主催する現代先端国際問題研究会で2008年3月にその分野の研究者に発表していただいた講演の議事録。

発生メカニズムの詳細はまだ良く分かっていない。最新の情報は「朝日新聞」2008.1.21付朝刊(ただし図は断層の深さ等不正確)。

これまでに分かっていることは、(1)南東傾斜断層約14キロメートルが動いたこと、(2)副因として北西傾斜断層も関係していること、(3)南東傾斜断層の東端は原発直下20キロメートルまで延びていること、(4)動いた断層は従来の音波反射法で探査できる限界の5キロメートルより深いこと、(5)動いた断層の約15キロメートル延長の西端に東電が過小評価したF-B(Fault-B、この意味は断層で分類記号B)が存在すること。

以下、考察。変形地質学研究者は、東電がF-Bを過小評価(褶曲構造まで含めると5キロメートルでなく30キロメートル)したことが原因としているが、実際にはF-Bは動いておらず、F-Bと動いた断層の西端の間に動いていない約15キロメートルの領域が存在するため、F-B主犯説は疑問。

よって、褶曲構造の評価の問題と主因は、切り離して評価すべき。

変形地質学研究者が褶曲構造を断層と評価すべきと言うことは正しい。これまで、それを無視したため、結果的に、断層の過小評価につながったが、そのことと、新潟県中越沖地震の主因は異なるかも知れない。
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原発訴訟の特徴

2008-03-24 00:10:31 | Weblog
以下の内容は私が主催する現代先端国際問題研究会で2008年3月にその分野の研究者に発表していただいた講演の議事録。

原発訴訟の特徴はいくつかある。それらは、(1)最先端の技術を浮上させていること、(2)問題はあるが、国策の下に、最終的には、原告敗訴になっていること、(3)地裁や高裁で原告勝訴の例が二例(金沢高裁「もんじゅ」判決及び金沢地裁志賀訴訟)あるが、それらは、同じ裁判長の下での判決であること、(4)原告側の証人の技術力が低いこと、(5)被告側にも多くの立証不十分があること、(6)原告側は、技術論争でなく、社民党系の政治的運動論であること等。
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日米安全保障条約下で米国の核の傘の中に生きることの功罪

2008-03-23 23:27:12 | Weblog
評論家の西部邁は、著書『核武装論』(講談社現代新書、2007)において、「日本のような民主独立平和国は防衛核を保有する権利を有する」とする主旨の主張をしている。一方、京大教授の中西輝政は、米国との信頼関係の下に、このまま米国の核の傘に依存するのが適切な選択と主張。

西部は独立保有、中西は米国依存。まったく異なる哲学に立脚。

日本は、疑いなく、直接に核武装していない。しかし、日米安全保障条約下に、米国は、核ミサイルを搭載した原子力潜水艦や原子力空母を日本周辺に配備しており、日本は、米国の核の傘の恩恵を受けていることは否定のしようのない真実。

日本人は意識していなくても、国外から見れば、日本は核武装しているに等しく映るに違いない。しかし、日本人は、恩恵を受けているが、直接的に製造した核でないという詭弁を使い、平気な顔をしている。それでよいのか。
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高速増殖炉(原型炉)「もんじゅ」燃料の劣化の物理的意味

2008-03-23 00:18:42 | Weblog
原子力機構は「もんじゅ」炉心に装荷されている燃料集合体の取替え申請をした。

1995年の事故で停止以来、11年経過したため、燃料が「劣化」したと言うのだ。その「劣化」の物理的意味を考察したい。

「もんじゅ」燃料はウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料。構成原子はウランとプルトニウム。

ウランは、主に、半減期約7億年のウラン235と半減期約45億年のウラン238からなる。プルトニウムは、プルトニウム238(半減期約88年),239(約24000年),240(約6537年),241(約15年),242(約39万年)からなる。

ウラン同位体とプルトニウム同位体は高速増殖炉の高速中性子では、すべて、核分裂する。そのため、臨界量は、それらによって決まる。

11年放置しておいて問題となるのはプルトニウム241の半減期の短さである。プルトニウム241のプルトニウム全体に占める割合は、約10パーセントだが、半減期からして、すでに、半分が崩壊してなくなっており、臨界量に影響する。そのため、臨界維持のため、また、正確な核計算や炉物理的評価をするためには、いまの燃料でなく、新たに製造する新燃料を利用せざるを得ないのだ。
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現代の理論的諸問題

2008-03-22 10:28:04 | Weblog
(1)原子力施設と活断層の位置関係

昨年7月16日、新潟県中越沖地震(M6.8)が発生。震源地は柏崎沖。十数キロメートル離れた位置に発電規模世界一の東京電力・柏崎刈羽発電所(原子炉7基)。発電所は、方向性の強い地震波に襲われ、火災・損傷が生じた。

Mは、経験的に、地震の規模(活断層の長さ・幅・ズレ)を示す。M6.8は、長さ30メートル、幅20メートル、ズレ1.4メートル。歴史的には、大地震でなく、中地震の最大級と大地震の最小級の境界規模。

これまでに分かっている動いた断層の方向は、深海底から発電所直下20キロメートルに向かう南東傾斜。ただし、それだけでなく、北西傾斜も組合された、複雑構造。まだ、良く解明されているわけでない。

ここで問題なのは発電所直下に活断層が存在すること。設置指針では地震地帯・活断層付近には設置しないことになっている。しかし、現実的には、どの発電所も地震地帯に有り、活断層から数キロメートルから数十キロメートルのところにある。

しかし、これまでに明らかになっていることは、断層の位置が水平方向か、斜め下で、柏崎刈羽発電所のように、直下ということはない。

その意味で柏崎刈羽発電所は特別な問題を抱えている。断層の存在が設置前に分かっていれば、設置許可が下りなかった可能性高。問題は、分かった時点でどのように判断するかだ。この問題は、経済産業省原子力安全・保安院や原子力安全委員会と独立の立場にある地震・活断層・建築・原子炉安全の研究者が検討し、判断するしかない。曖昧に放置してはならない。

(2)東海地震と震災

地震のことは予測困難。しかし、プレート型は、地殻のひずみに起因するため、相対的に、予測・定量化し易い。

国の中央防災会議が評価した東海地震の加速度応答スペクトルが妥当であれば、それは、新潟県中越沖地震の時に柏崎刈羽発電所で観測された代表的なスペクトルに近いため、浜岡発電所がそれにより受ける影響・挙動の様子は、ある程度、推定可能。

浜岡発電所は、柏崎刈羽発電所同様、設置に根源的問題を抱えており、今後、どうするか、クリチカル・エバルエーションの必要有り。この問題は、柏崎刈羽発電所と同様、経済産業省原子力安全・保安院や原子力安全委員会と独立の立場にある地震・活断層・建築・原子炉安全の研究者が検討し、判断するしかない。

日本で浜岡発電所ほど面白おかしく議論された原子力施設は他に例がない。確かに大地震に対する懸念はあるが、それは、最悪、施設の損傷程度に留まることが推定され、間違っても、多くの死傷者を生じるような災害にはならないことは、米スリーマイル島発電所2号機の炉心溶融事故の影響・被害から容易に推定可能。

数十名ないし数百名の死傷者を生じるような確率は年間平均10のマイナス9乗以下、すなわち、10億分の1以下であり、現実には考えなくてよい。
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Thomas S. Kuhn ; The Road Since Structureの邦訳の評価

2008-03-21 21:18:58 | Weblog
Thomas S. Kuhn "The Road Since Structure", Ed. by James Conant and John Haugeland, The Univ. of Chicago Press,(2000)の邦訳『構造以来の道』(佐々木力訳、本文464頁)がみすず書房から昨年12月に刊行された。

この本の特徴は、(1)『科学革命の構造』後の1970-93年の哲学論稿の体系化、(2)特に『科学革命の構造』に対する批判論者(ジョン・ワトキンズ、スティーヴン・トゥールミン、L・パース・ウィリアムズ、カール・ポパー、マーガレット・マスターマン、イムレ・ラトカッシュ、パウル・ファイヤアーベン)への反論、(3)第三部「トーマス・S・クーンとの討論」における自ら語った学問的経緯と人生(インタビューア; アウスティデス・ヴァルタス、コスタス・ガヴログル、ヴァシリキ・キンディ)、(4)論文・著書約120編のリストアップ。

私は、第三部の内容によって、これまで霧に包まれていたクーンの人生の多くの疑問点の理解が可能になった。

邦訳は、実に、注意深く、綿密に、厳密に(本文の誤りの修正ばかりか、数多くの訳者補足)なされ、邦訳の手本のようだ。クーンの格調高い哲学をそのまま再現。邦訳には数年費やしたと言うが、訳文からその時間が読み取れるくらいすばらしい。
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『事故調査報告書』(RA2007-3-1)の詳細分析

2008-03-21 17:21:50 | Weblog
以下の内容は私が主催する現代先端国際問題研究会で2007年7月にその分野の研究者に発表していただいた講演の議事録。

航空・事故調査委員会は、2007年6月28日、同委員会編『事故調査報告書−西日本旅客鉄道株式会社福知山線塚口駅-尼崎駅間列車脱線事故−』(RA2007-3-1)を公表(本文263頁、図表込みの全体約300頁)。

本文はhttp://araic.assistmicro.co.jp/railway/report/RA07-3-1-1.pdfで参照可。

事故調査委員会は、事故直前の乗客の重心移動状況の調査や多くの運転士へのアンケート調査等、綿密な調査・検討を実施。しかし、脱線メカニズム解明のための実規模実験を実施していない。

脱線メカニズム解明はコンピュータ・シミュレーションに全面的に依存。計算結果の信頼性は採用したコンピュータ・プログラムの性能に左右される。しかし、信頼性証明の記載がない。よって、計算結果に含まれる誤差が推定できない。

しかし、高い信頼性があるとして引用する。計算条件は、一両目と二両目の台車振動特性等の車両全体の詳細なデータや乗客の重心移動まで考慮。

一両目だけでは、時速105km/hで脱線しないが、時速110km/hで脱線。二両目だけでは、時110km/hでは脱線しないが、時速115km/hで脱線(表42,p.186)。

よって、事故直後に公表された脱線直前の時速105km/hから、脱線の可能性に対し、確実な判断はできなかった。できたと言うのは事故報告書が出た後の後づけ。

時速116km/hという数字は、事故調査委員会によって、事故後、かなり経ってから出されたもので、当時は、分かっていなかった。脱線直前の時速を105km/hから116km/hへ変更したのは運転席速度計表示の数パーセント過小表示に起因。

報告書には、脱線原因について、「速度超過に起因する超過遠心力によるものと推定される」(p.225)と記されている。コンピュータ・シミュレーションに依存しているため、断言できていない。事故時のすべてを忠実に模擬した実規模実験の実施を提言する。

車両構造改善策については、多くの犠牲者を出した二両目の破壊状況の詳細な調査から、「少しでも車体断面が菱形に変形しにくいような配慮が被害軽減に有効であり、車体側面と屋根及び床面との接合部の構造を改善するなど、客室内の空間を確保する方策について検討することが望まれる」(p.233)と記されている。これは常識論。

車両メーカーが現実的な脱線を想定した車両設計を実施していたら、死者半減可能。脱線事故は、第一に、JR西日本の工学的安全装置の設置遅れや運転士の不注意な運転操作に起因するが、第二に、車両メーカーの技術力欠如も無視できない要因。

鉄道分野の安全性の考え方と工学的安全対策は、新幹線を除外すれば、非常に遅れている。優先事項は事故対策。JR西日本等が主張するような人間の注意力に依存するやり方は、半世紀前の時代遅れの安全論で、最近数十年は、ヒューマンエラーやマン・マシン・インターフェースの問題まで踏み込んでいる。

以下、略。
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ポール・ポースト著・山形浩生訳『戦争の経済学』の読後感

2008-03-20 19:34:19 | Weblog
この本は、昨年11月、バジリコ社から刊行された。学術文献から数多くの図表を引用し、学術的手法で研究対象を綿密に分析。参考になるので、ぜひ、本棚に置いて、必要に応じて繰り返し読み直すと効果倍増。

この本は、戦争の経済学について、政治・経済等の社会的諸条件を基に、(1)戦争前のその国の経済状態、(2)戦争の場所、(3)物理・労働のリソースをどれだけ動員するか、(4)戦争の期間と費用、そしてその資金調達法、をポイントに詳細分析。

戦争は経済発展の要因になるというのはこれまでの鉄則。確かに、第一次世界大戦・第二次世界大戦・朝鮮戦争までは、その鉄則が成立。しかし、比較的最近のベトナム戦争、ごく最近の湾岸戦争・イラク戦争では、その鉄則が不成立。

鉄則が成立するには、「(1)その国が戦争前に低い経済成長で遊休リソースがたくさんあること、(2)戦時中に巨額の政府支出が続く時、(3)自国が戦場にならず、期間が短く、節度を持った資金調達が行われている時」(同書のp.51より引用)。
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原水爆の爆発エネルギー

2008-03-20 17:07:08 | Weblog
総放出エネルギーは核反応当りの放出エネルギーに全核反応数をかけた値。広島原爆ではダイナマイト6億本分、長崎原爆では8億本分に相当(Allison,Graham. Nuclear Terrorism:The Ultimate Preventable Catastrophe.New York,Henry Holt(2004)の記載内容を基に計算)。

いま配備されている原水爆は広島・長崎原爆の爆発エネルギーの数十万倍から100万倍。そのため、広島・長崎の被害規模からいまの原水爆の被害規模を推定するのは見当違い。
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