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福田首相が潘基文国連事務総長との会談で、スーダン南部での国連平和維持活動(PKO)に自衛官を派遣すると表明した。
自衛隊がアフリカでのPKOに参加するのは93年5月のモザンビーク以来である。94年、ルワンダ難民の救援で旧ザイールに派遣された際は、PKOの枠外での協力だった。
アフリカ支援に力を入れてきた日本政府として、久々に人的な貢献に踏み出すのは評価する。
それにしても腰が引けすぎてはいないか。政府によると、派遣するのは国連スーダン派遣団(UNMIS)の、首都ハルツームにある司令部で、連絡調整などの任務にあたる自衛官数人を出すことを検討するという。
スーダン派遣団には現在、欧米や途上国など69カ国から約1万人の軍隊や警察が派遣され、難民の帰還支援や停戦監視にあたっている。比較的治安がいいとされ、かねて日本の参加を望む声が国連にあったところだ。
スーダンでは80年代初めから、20年以上にわたって内戦が続いた。05年に包括和平が合意され、国連PKOが派遣された。これとは別に、5年前から西部のダルフール地方でも紛争が続く。住民が政府系の民兵に組織的な迫害を受けるなど人道問題として国際社会の関心が高い。
スーダンはアフリカでの平和構築を語る時の象徴のような存在でもある。
それだけに、福田首相や外務省はスーダンPKOへの参加に前向きだった。ダルフールはまだ危険すぎるが、南部ならばという判断だろう。だが、防衛省は治安などを理由にまとまった部隊を出すことに慎重で、結局、少数の司令部要員を出すという今回の折衷策に落ち着いたようだ。
派遣部隊の安全にこだわる防衛省の立場は分かる。だが、部隊の派遣が既成事実になりかねないとばかりに、調査団を出すことにも消極的だったのはいただけない。
イラクで活動を続ける航空自衛隊やサマワに駐留した陸上自衛隊に、100%の安全が保障されていたわけではない。憲法上の疑義さえあった。同盟国米国の期待があれば踏み出すのに、国連のPKOとなると「危ないから」といって腰を引くのでは、日本の姿勢が問われる。
国連の統計によれば、日本は国連PKO予算の17%を負担しているのに、部隊や警察官の派遣数では全体の0.04%の36人。119カ国中の83位だ。武器使用基準の見直しなど防衛省にも言い分はあろうが、首相が「平和協力国家」を唱える国として、これはいかに何でも少なすぎないか。
今回の司令部派遣を手がかりに、現地の安全状況や要請をよく調べ、日本の役割を広げることを考えるべきだ。
ここまで手の込んだごまかしをするのか。そうあきれたくなるほどの偽装が明るみに出た。
中国産ウナギの売れ残りを大量に抱えた業者が、国産と偽って売っていた。農林水産省の調べでは、偽装したウナギは約200万匹にのぼり、このうち少なくとも39万匹が市場に出回ったらしい。
関与が明らかになっているのは大阪市と神戸市の二つの会社だ。目を引くのは、その悪質な手口である。
商品には「愛知県三河一色産」という表示とともに、「一色フード」という製造者名が記されていた。だが、こんな会社はどこにも存在しない。所在地として書かれていたのも、でたらめな地名だ。発覚した時に自分たちの名前が出ないよう、あらかじめ巧妙に仕組んでいたようだ。
商品の流れもあえて複雑にし、ばれにくくしていた。実際は2社の間で取引していたのに、伝票上は別の二つの業者を経由したことになっていた。
加えて、両社の当事者の間で1千万円という不透明な金のやりとりまでしていた。「口止め料という認識だった」との証言が出ている。
ここまで来ると、「つい偽装に走った」といったレベルのものではない。計画的に偽装し、周到に隠蔽(いん・ぺい)工作をしていたというほかない。
こんな手口を考える暇があったら、なぜ在庫となっていたウナギの山を売ることに考えを巡らせなかったのか。知恵の使いどころが間違っている。
もともと国内で出回っているウナギは、国産より外国産の方が多いといわれる。だが、安全性などを気にする消費者は国産を選びがちだ。
だから、国産のかば焼きには、中国産の2倍以上の値がつく。偽装した業者は産地をごまかしたうえに、不当な高値で売ってもうけていたのだ。
偽装に介在した指南役がいるともささやかれている。警察も関係者から事情を聴いている。同じような悪質な手口を広げないためにも徹底的な解明を求めたい。
それにしても、食品をめぐる偽装の横行をどう防げばいいのか。
つい最近も岐阜県の業者が、偽の「飛騨牛」を売っていたことが発覚したばかりだ。これでは消費者は表示を信用できなくなるし、まじめな業者が被る迷惑もはかりしれない。
この際、不正に手を染めにくいよう行政による指導の仕方や罰則を見直してはどうか。
たとえば、こうした表示について定めた日本農林規格法(JAS法)には、違反した会社への罰金の規定がある。だが、そこに至るまでにはいくつかの手順を踏まなければならない。
悪質な不正の場合には、すみやかに厳しく対応できるようにすべきだ。