6月19日、25日に相次いで発表されたAMDの新GPU「Radeon HD 4800シリーズ」については、Radeon HD 4850発表直後にベンチマーク速報をお届けした。その結果に加え、Radeon HD 4870やCrossFireなどのテスト結果も含めたベンチマーク結果を紹介したい。 ●Radeon HD 4850と4870の外観 今回登場したRadeon HD 4800シリーズについては、すでにニュース記事や詳しい解説記事が掲載されているので、ここでは早速、搭載製品の紹介を行なっていきたい。 今回テストするのは速報記事でも使用した、Radeon HD 4850搭載製品であるMSIの「R4850-T2D512」(写真1)、および同GPU搭載製品のSapphireの「HD4850 512M GDDR3 PCI-E DUAL DVI-I/TVO」(写真2)。そして、上位モデルとなるRadeon HD 4870を搭載する、MSIの「R4870-T2D512」(写真3)の3製品である。いずれもリファレンスモデルを採用した製品であり、MSI両製品の外観をチェックしてみたい。
まずは、Radeon HD 4850搭載製品であるが、こちらの外観の大きな特徴は1スロットクーラーにあるだろう。リファレンスカードの消費電力は110W。前世代製品となったRadeon HD 3870は105Wで2スロットクーラーを採用していた点や、105WのGeForce 8800 GTのクーラーの能力不足が叫ばれたなか、やや不安の残る仕様である。実際に使っていてもクーラーが高回転に回る頻度が高く、かなりギリギリの熱設計ではないかと思われる。ただ、テスト中、熱暴走のような挙動はなかった。 裏面には目立ったチップの実装がない(写真4)。Radeon HD 4850のメモリインターフェイスは256bitで、32bit×8枚のメモリが表面のみに実装されている。メモリクロックはデータレートベースで2GHzとされており、実クロックは1GHz。Catalyst Control Panelから確認すると、若干遅いが、ほぼ定格通りで動作していることを確認できる(画面1)。 ボート末端部には1個の6ピン電源端子を備える(写真5)。本製品の消費電力は最大115Wで、PCI Expressから供給可能な75Wを超えるためだ。
ブラケット方向に目を向けると、2つのCrossFire端子に目が留まる(写真6)。これは、Quad CrossFireをサポートするということであり、前世代製品のRadeon HD 3850を受け継いだ仕様となる。 ブラケット部は一般的なDVI×2+TV出力の構成(写真7)。ただ、Radeon HD 3800シリーズと比較して仕様が一部変更になっている点は注意が必要だ。Radeon HD 3800シリーズは、2つのDVI端子の両方がDualLink出力をサポートしていた。しかし、Radeon HD 4800シリーズは、DualLinkのサポートがプライマリ側のみになり、セカンダリ端子はSingle Linkのみに変更された。 この点はスペックダウンともいえるが、逆にスペックが強化された部分もある。それがHDMI出力時に利用される内蔵のHD Audioコントローラで、Radeon HD 3800シリーズまでは5.1ch AC3までのサポートとなっていたが、これが7.1chまで利用可能になった。そのほか、HDCPや30bit出力、DisplayPortのサポートといった点は変更されていない。 続いてはRadeon HD 4870であるが、こちらは2スロット占有タイプの厚型クーラーを搭載する。リファレンスの消費電力は160Wとなっており、ハイエンド製品らしくボード末端部には6ピン端子を2基備えることになった点も特徴となる(写真8)。余談ながら、AMDおよびATIの製品では過去にRadeon HD 2900シリーズで6ピン+8ピンの電源端子を備えた例はあるものの、6ピン×2基の構成を取るビデオカードは意外にも初めてだ。 Radeon HD 4850との違いは動作クロックのみで、機能面の違いがないこともあって、そのほかの外観上の違いは特に見受けられない(写真9〜11)。 Catalyst Control Centerの表示による動作クロックはコアクロック750MHz、メモリクロック900MHzとなっている(画面2)。本製品のメモリクロックは、データレートベースの表記で3.6GHzという値がなされている。本製品はGDDR5を採用した初めてのビデオカードという点も大きな特徴であるが、このGDDR5はワンクロックで4値を転送可能であるため、メモリクロックをデータレートベースで表記すると3.6GHzとなるわけだ。 ●UVD2で搭載されたDVDのアップスケール機能をチェック ビデオ再生支援機能であるUniversal Video Decorder(UVD)もRadeon HD 4800シリーズの機能強化点である。Radeon HD 3800シリーズまでに搭載されたUVDの機能に加え、BD Live対応を主な目的としたデュアルストリームデコードがサポートされる。このほか、動画の全フレームのコントラストを自動調整するダイナミックコントラスト機能や、DVDのアップスケール機能が加えられた。 BD Liveはコンテンツも少なく、このメリットを享受できる人は少ないだろう。しかし、そのほかの機能については効果が気になるところ。とくに、未だ利用ユーザー数も多いDVDのアップスケール機能は意味あるものだ。 このDVDのアップスケール機能について、PowerDVD Ultraを用いて、1,920×1,200ドットの画面上で最大化表示させた結果を紹介したい。ただし、今回のテストは、DVDのアップスケールを含む、UVD2の正式な使い方について情報がないため、前例に従って、PowerDVDというUVD対応アプリケーションを利用したものである。 ただ、こうした単純な使い方でも、若干の効果が見受けられる結果となった。パターン1〜7はRadeon HD 3870で同様の使い方をした場合との比較で、Slicon Optix社の「HQV Benchmark」の再生画面をキャプチャしたものから、一部分を等倍で抜き出したものである。 Radeon HD 3870の表示では拡大表示をしたことで全体にボヤけてしまっている印象がある。とくに文字や線、花の雌しべなどが顕著な部分で、ボヤけてしまったことで解像感が損なわれている。一方のRadeon HD 4850は、このあたりが非常にクッキリ表示されており、とくに文字のシャープさや雌しべの解像感向上などが分かりやすい。文字のシャープさが増すことは、我々に日本人にとっては意味が大きい。ハードサブとなるDVDの字幕は拡大表示を行なうことでボケやすくなる。この字幕がクッキリと表示されるだけも、嬉しく思う人がいるのではないだろうか。
一方で、星条旗の星はシャープさ増した反面、ブロックノイズが目立つようにもなっており、ソースによっては確実に良くなるとは限らない。また、針葉樹の例などでは多少コントラストの変化も感じられるものの、ダイナミックコントラストの効果はそれほど感じられない。自動調整ではあるものの、アプリケーション側でチューニングの余地があるのならば、今後調整を重ねて欲しいと思う部分だ。 ●シングルGPUビデオカード同士の比較 それでは、グラフィックベンチマークの結果をお伝えしていきたい。ここでは、まず、シングルGPUビデオカードによる比較を紹介する。環境は表1に示した通りで、テストに使用した主な機材は写真12〜16である。 ドライバについて補足であるが、テストを開始した時期の関係で、ここ1週間ほど頻繁に行なわれたアップデートに追従できていない。Radeon HD 4870/4850に関してはレビュワー用にAMDから提供された専用ドライバ。Radeon HD 3870はテスト時点で最新のCATALYST 8.6。NVIDIA製品も同じくテスト開始時点でG92対応ドライバとしては最新だったGeForce Release 175.16を使用している。
【表1】テスト環境(シングルGPUテスト)
では、順に結果を紹介していく。まずは、「3DMark Vantage」(グラフ1、2)である。見ての通り、Radeon HD 4800が非常に優秀なスコアをたたき出した。絶対的なスコアも非常に大きいのだが、GeForce勢との相対比較で見ても面白い傾向がある。 Radeon HD 3870では、GeForce 8800 GTとの比較からも分かるように負荷が増すほどにスコアが伸び悩む傾向が目立つ。一方のRadeon HD 4800シリーズは、GeForce勢に対して負荷が増すほどに差をつける傾向にあるのだ。 また、Feature Testの結果からは、Pixel Shaderのスコアの良さに加え、Perlin Noiseのスコアが非常に高く、SPの演算能力の高さが浮き彫りになっている。 一方、Vertex ShaderとStream Outの能力を測るGPU Particlesはまずまずの性能だが、Geometry ShaderとStream Outの能力が影響するStream Outの項については、GeForce勢の後塵を拝する結果となった。とくにGeometry Shaderの処理に弱さを感じさせる結果といえるだろう。とはいえ、Radeon HD 3800シリーズの結果はこうした頂点系の処理で著しく劣る結果を見せていることから、この点はかなり力を入れて改善してきた印象を受ける結果だ。
「3DMark06」(グラフ3〜7)の結果は、大局的に言えば、負荷低ければRadeon HD 4870とGeForce 9800 GTX、Radeon HD 4850とGeForce 8800 GTが好勝負を見せているものの、負荷が高まるとRadeon HD 4800シリーズに優位性がある結果となった。とくにHDR/SM3.0テストで優位性が際だっており、こうした特性が強く感じられる。 Feature Testの結果も、先のVantageと似たような傾向を示している。Pixel Shaderおよび、その演算能力が問われるテストではRadeon HD 4800シリーズが非常に優秀なスコアを出す一方、Vertex Shaderの処理は今ひとつ。こちらはRadeon HD 4850がRadeon HD 3870にも劣る結果というVertex Shader処理の弱さを垣間見せている。 Fill-Rateの結果は、マルチテクスチャリング処理時にGeForce勢に劣る結果を見せているものの、Radeon HD 3870からは大幅な改善を見せており、アーキテクチャの一新によって、優位性はそのままに、旧世代製品の弱点を満遍なく解消し全体のパフォーマンスを底上げしてきたことが良く分かる。
「F.E.A.R.」(グラフ8)の結果は、3DMark06のOverallスコアに近く、とくに高解像度でRadeon HD 4800シリーズが相対的に優れたスコアとなる。低解像度においてはCPU側のボトルネックも起こりやすいことを考えると、高解像度でスコアが良いというのはGPUの能力としては重要なのは言うまでもないだろう。
「Call of Duty 4:Modern Warfare」(グラフ9)の結果は低解像度ではCPUの負荷割合が高まるが、それでもRadeon HD 4800シリーズが優れた結果を見せた。低負荷から高負荷にかけて製品間の差があまり開かないのも特徴的で、ビデオカードを交換したらクオリティ設定に関わらず性能の差を享受できるアプリケーションといえる。
「Crysis」(グラフ10)はGeForce勢が強いイメージのあるアプリケーションの1つだが、Radeon HD 4800シリーズが非常に良い性能を見せている。とくに上位モデルのRadeon HD 4870のスコアはミドルレンジからセミハイエンドの価格帯では頭ひとつ抜きん出たスコアといえるだろう。Radeon HD 4850はGeForce 9800 GTXと比較してやや劣る結果になっているものの、本来のライバルといえるGeForce 8800 GTを圧倒している。
「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ11)もRadeon HD 4870が頭ひとつ抜け出した印象だ。Radeon HD 4850も、低解像度ではGeForce 8800 GTと似たスコアになるが、解像度が高くなるとGeForce 9800 GTXに近づく。Radeon HD 4800シリーズは、Radeon HD 3800シリーズとは異なり、とにかく高負荷に強い製品へと変貌を遂げている。
「World in Conflict」(グラフ12)は低負荷はCPUによる制約が大きく参考にしづらいが、高負荷のほうはROP(レンダバックエンド)やメモリアクセス性能の差が出やすいアプリケーションで、ここはRadeon勢が圧倒した。ROP周りの改善はRadeon HD 4800シリーズが強くアピールしている部分であるが、Radeon HD 3870との傾向の違いから見ても、非常に良い結果を出せていると思う。
「Unreal Tournament 3」(グラフ13)の結果もRadeon HD 4870の良さ目立つ。ただ、Radeon HD 4850のスコアを見ると分かりやすいが、フィルタを適用したときのスコアの落ち込みはGeForce勢に比べると大きめである。アプリケーションによっては、こうした得手不得手も見られるわけである。
「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ14)は、Unrealとは逆の意味でフィルタ適用時に面白いスコアが出た。Radeon HD 4800シリーズはフィルタを適用しても、ほとんどスコアの落ち込みが見られないのだ。不思議な結果ではあるのだが、実際には見た目に変化が生じているので、そのままスコアを掲載している。 とはいえ、絶対スコアはというとGeForce勢に劣っており、このアプリケーションをとことん楽しむならGeForce、という傾向を覆すまでには至っていない。
●CrossFire構成の比較テスト 続いてはCrossFire環境のベンチマークスコアを見てみたい。環境は表2に示した通り、Radeon勢に関してはカードを2枚にしてCrossFireを構築し、Radeon HD 3870 X2を1枚のみ使ったテストを追加した。 GeForce勢に関してはシングルビデオカードによる比較のみとし、エンスージアスト向け製品であるGeForce GTX 280と同9800 GX2を用意。前者のドライバはGeForce Release 177.34、後者は先述のシングルGPUビデオカードと同じくGeForce Release 175.16を使用している。テストに使用した機材は写真17〜19の通り。
【表2】テスト環境(デュアルGPUテスト)
「3DMark Vantage」(グラフ15)、「3DMark06」(グラフ16〜18)のRadeon HD 4800シリーズの強さは際だっており、3DMark VantageではGeForce 9800 GX2、3DMark06ではGeForce GTX 280がスコアを伸ばすなか、とくに高負荷では完全に差を付けている。 これはビデオカード2枚だから、と単純に片付けるわけにはいかない。Radeon HD 4850×2枚の構成でも両製品を上回る傾向にあるからだ。GeForce両製品の価格帯は6万円を超える。一方、Radeon HD 4850は2枚でも5万円前後で、チップセットが制限される点を加味しても割安に収まる。絶対的なパフォーマンスに加え、価格性能比でも魅力的な環境となっているわけだ。
「F.E.A.R.」(グラフ19)の結果はフィルタ適用時にRadeon HD 4800シリーズが優位性を見せる結果になっている。逆にフィルタを適用しない場合は、Radeon HD 4870こそ安定したスコアを出しているものの、Radeon HD 4850はGeForce勢に劣る傾向を見せる。とはいえ、絶対的なフレームレートが大きいようなF.E.A.R.のようなケースでは、こうした傾向も意味あるものといえるだろう。
「Call of Duty 4:Modern Warfare」(グラフ20)の結果はシングルGPUビデオカードテストと似たような傾向を見せており、Radeon HD 4800シリーズが安定した強さを見せている。また、CrossFireによる向上の割合が非常に大きく、高解像度では素直に倍近いスコアが出ているのも好印象だ。
「Crysis」(グラフ21)は若干惜しい結果となった。とくにCrossFireによるパフォーマンスアップがそれほど大きくなく、とくに低解像度ではGeForce勢の強さが目立つ結果になってしまっている。それでも高解像度では盛り返すあたりは、本製品のポテンシャルを感じさせるものといえるだろうか。
「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ22)は全般にGeForce勢が強い結果となった。とくにGeForce GTX 280が低負荷から高負荷まで優れた結果を見せており、CrossFireのRadeon HD 4870でも力不足を感じる結果となっている。
「World in Conflict」(グラフ23)は、シングルGPUビデオカードの結果でも見えた通りフィルタ適用時のRadeon HD 4800シリーズの良さが光っている。フィルタを適用しないときはGeForce勢の強さがあるが、Radeon HD 4850のCrossFireでも十分に対抗できている。レンダバックエンドとメモリ周りの改善が功を奏した結果であろう。
「Unreal Tournament 3」(グラフ24)の結果は、シングルGPUビデオカードとはまた違った傾向が見て取れ、フィルタ適用時もGeForce勢に比べてスコアの落ち込みが小さい。もちろんこれは2枚のビデオカードと1枚のビデオカードという違いもあるわけで、こうした違いが出ても不自然ではない。しかしながら、CrossFireとすることできっちりスコアを伸ばし、フィルタ適用時もそのパフォーマンスアップの恩恵を享受できる点は意味あるものといえる。
「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ25)の結果は、やはりフィルタを適用してもスコアの落ち込みがほとんど無い傾向に代わりはない。そのおかげもあって、Radeon HD 4870のCrossFire時、とくに高負荷の条件でGeForce勢と好勝負ができている。とはいえ、Radeon HD 4850のCrossFireは伸び悩みを感じる結果であるし、全般にはGeForce勢が強いという印象は残る。
最後に、全テスト環境の消費電力を測定した結果である(グラフ26)。Radeon HD 3800シリーズから消費電力が増したRadeon HD 4800シリーズであるが、その通りの結果になった。とくにピーク時の消費電力は大きい。ただ、Radeon HD 4850はわりと抑えらており、テストによっては似たようなスコアを見せるGeForce 9800 GTXより下回るのは好印象だ。 アイドル時はPowerPlayがあるとはいえ、それほど消費電力は下がらない。似たような省電力機能を備えたGeForce GTX 280のアイドル時の省電力さと比べると差は歴然としている。そもそもPowerPlayによるアイドル時のクロックは画面1、2でも示した通り500MHzとなっており、ピーク時クロックと大きく変わりがない。この消費電力もしかたないといえるかも知れない。
●ミドルレンジ〜ハイエンド帯を一新させる威力 今回テストしたRadeon HD 4870、4850はすでに市場に登場しており、前者は4万円弱、後者は2万台中盤の価格帯になっている。今回のベンチマーク結果から見るに、この価格帯においてパフォーマンスのレンジを完全に塗り替える存在になったことは間違いないだろう。 Radeon HD 3800シリーズの弱点の多くを克服し、これを完全に過去の製品へと押しやってしまった。NVIDIAがGeForce 9800 GTXを使って対抗策を打ち出した理由も頷ける結果だ(なお、GeForce 9800 GTX+についても近々ベンチマーク結果をお届けする予定だ)。 惜しむらくは消費電力が増してしまったことで、この点だけは、Radeon HD 3800シリーズの良さが損なわれてしまった。CrossFire時にはとくに注意を要するであろうが、筆者としてはパフォーマンス向上のトレードオフとして納得できる消費電力増だと思う。 2008年6月はNVIDIAのGeForce GTX 200シリーズ、AMDのRadeon HD 4800シリーズと、エンスージアストからハイエンド、セミハイエンドのレンジで新製品が次々と投入された。いずれも過去の製品のパフォーマンスを大きく上回り新世代への移行を感じる製品ばかりだ。GPUにとって記憶されるべき月になったと言えるだろう。 □関連記事 (2008年6月30日) [Text by 多和田新也]
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