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社説1 米政府は北のテロ国家解除を再考せよ(6/27)

 米政府は北朝鮮の核計画申告を受け、テロ支援国家の指定を解除すると議会に通告した。日米同盟の信頼性にかかわる、と述べたとされる斎木昭隆外務省アジア大洋州局長の警告を退けての決定である。北朝鮮の思惑通りの展開であり、日米同盟の基盤を崩しかねない危機である。

 解除決定までの45日間に北朝鮮が実効的な検証措置を示し、日本人拉致問題の解決に向けても具体的な進展があれば局面は変わる。それがないのであれば、ブッシュ政権は解除を撤回する必要がある。

 解除には多くの問題がある。

 第1に、今回の取引は合理性と均衡を欠き、核の完全廃棄に向けた交渉をかえって難しくする。

 核申告とテロ支援国家の指定解除は、米国内法上、絡んでいない。しかも北朝鮮は昨年10月の6カ国協議の合意では昨年中にすべての核計画の完全かつ正確な申告をするとしていた。半年遅れの申告である。

 期限に半年遅れて提出された宿題に法外なご褒美をあげる。生徒は甘やかされる。これからも宿題を怠ける……。核廃棄は望み薄となる。

 第2に、未申告に比べれば、形式上は一歩前進だが、申告は核兵器に言及せず、検証措置も不明確とされる。北朝鮮のような閉鎖国家は、過去そうしたように査察担当者をいつでも国外追放できる。閉鎖体質がある限り、実効的な検証は難しい。

 第3に、北朝鮮は本当にテロ支援国家ではなくなったのか。2001年9月11日の同時テロと日本人拉致は、ともに文明社会に対する挑戦である。日本に約束した拉致をめぐる再調査は着手されていない。国家テロリストと言うべき拉致実行犯はいまも北朝鮮当局の手中にある。

 第4に、日米同盟への打撃は深刻である。ブッシュ政権はイランには厳しく、北朝鮮にはそうでもない。今回の決定は北朝鮮に対する日米間の脅威感覚の違いを見せつけた。脅威感覚の共有は同盟の前提であり、それがなければ日米安保条約は紙切れに近い。

 ヒル次官補は盧武鉉政権時代の駐韓大使の感覚のままだ、との声を米側関係者から聞く。福田康夫首相が亀裂に目をつぶり、表面を繕って融和主義に同調すれば、同盟を支えてきた日本側の土台は浸食される。

 ブッシュ政権の任期切れが近いのを北朝鮮が計算しているのは明らかである。私たちはブッシュ大統領に問いたい。あなたは太平洋の対岸にある最も重要な同盟国を失うきっかけとなる決定をした大統領として歴史に名を刻みたいのですか、と。

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