国交省が淀川流域のダム計画案を提示したことに、関係府県の知事の反応はさまざまだった。上流側か下流側かの地理的条件や知事の個性もにじみ出た。
環境社会学者でもある滋賀県の嘉田由紀子知事は、就任(06年7月)前、琵琶湖・淀川流域の過去の水害被害の教訓を伝える非政府組織(NGO)活動にも熱心で、「ダムは原則建設しない」とした淀川水系流域委の委員も務めた。今回の同省の姿勢に「私たちが出した論点への回答もなく、案が提示されたのは遺憾」と不快感を見せた。
一方、三重県の野呂昭彦知事は「地域の治水・利水の安全度向上に向けた前進」と歓迎のコメントを発表した。これまで野呂知事は流域委の意見について「(下流の)大阪地域での視点で見ている」などと反発していた。
京都府の山田啓二知事は計画案に対する評価は避けたが、「論点整理が不十分なままの計画案が出て、われわれ(府県)が余計な作業をしなきゃいけない」と不満をあらわにした。
下流域の大阪府は治水面での費用負担率が最も高い。橋下徹知事は「改めて詳細な説明を聞き十分理解して意見を述べたい」と慎重なコメントを出した。
冬柴鉄三国交相は会見で「破堤や洪水に責任を持つのは河川管理者(国)だ。主体的な意見を持たなければいけない。流域委軽視ではない」と発言した。【武井澄人、服部正法、田中功一、石川隆宣】
==============
◆各ダムの事業費と国・府県の負担◆
大戸川 川上 天ケ瀬
大阪府 230 91 70
京都府 135 35 56
滋賀県 14 0 0
三重県 0 94 0
国など 701 1000 304
計 1080 1220 430
(単位は億円。川上ダムは自治体の負担割合がさらに増える見通し。丹生ダムは形状未定で事業費も未定)
◆国交省と淀川水系流域委の見解◆
<前提>国交省が200年に1度の大雨を33パターン想定して試算した結果、うち2パターンでは、大戸川ダム建設と天ケ瀬ダム再開発の効果により、淀川下流で水位が19センチ低下する。この水位は堤防が壊れる危険のある水位(計画高水位)の2センチ下となる。
<流域委見解>19センチは計算誤差の範囲で、治水効果は限定的だ。堤防強化などダム以外の治水法の検討も不十分で、ダム建設は不適切だ。
<国交省見解>19センチの水位低下は大きな効果だ。堤防強化は必要だが、治水効果の算定が難しく、ダム建設の代わりにはならない。
毎日新聞 2008年6月21日 大阪朝刊