【第33回】 2008年06月19日
宮崎勤の死刑執行で鳩山法相を批判した反対派議員の筋違い
つまり、鳩山法相が、死刑囚の氏名や罪状などを仔細に発表してきたことで、死刑反対派は対抗手段を握ったのだ。実際、5月以降、死刑確定囚への再審請求が連発して提出された。
ところが、さらに皮肉なことが起きた。死刑反対派によるそうした戦術が、本来執行リストの後半部分にあった「宮崎勤」の名前を繰り上げてしまったのだ。サミット後と見られていた執行は、これで一気に早まった。
そうした戦術を採り、この秋にも宮崎確定囚への再審請求を出そうとしていた日本弁護士連合会は、即日、宮崎誠会長の声明を発表した。
「半年あまりで13人もの大量執行が行われた。政府に対し、死刑制度の存続を含む抜本的な検討と見直しを行うまで一定期間、執行を停止するよう重ねて強く要請する」
死刑反対派議員の
論理には矛盾がある
死刑制度論議は行われるべきだ。永田町では、賛成、反対という立場を乗り越えて、話し合う機運も高まっている。法務省内にも法相の私的懇談会が作られ、量刑などの制度勉強会が始まっている。
だがそうした流れはありながらも、政治家やメディアは、現状を冷静に見る目を忘れてはならない。
そもそも、現行の刑事訴訟法では、死刑確定後6ヵ月以内の執行が定められている。今回の宮崎死刑囚への執行を、新聞各紙は「異例のスピード」と表現しているが、それでも確定後2年4ヵ月が経過している。
だが、よく考えてみると死刑反対派議員などの論理は矛盾を孕んでいる。日本は法治国家である。現行の法律では、極刑は「死刑」であり、その執行は司法によって確定された「6ヵ月以内」と定められている。それを定めたのは他ならぬ立法府、つまり国会議員なのである。
メディアや弁護士会が法相の死刑停止を主張するならばいざ知らず、亀井氏や保坂氏のような国会議員が、法務行政のトップにいる鳩山氏に向かって、「死刑執行を止めろ」というのは本末転倒ではないか。それは、法務大臣に対して、「法律(刑事訴訟法)を犯せ」と命じていることに他ならない。
確かに死刑を執行するのは法務大臣と法務省である。だが、それを作るのも止めるのも、国会議員の仕事、つまり亀井氏や保坂氏が所属する立法府の役割なのである。
第33回 | 宮崎勤の死刑執行で鳩山法相を批判した反対派議員の筋違い (2008年06月19日) |
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上杉隆
(ジャーナリスト)
1968年福岡県生まれ。都留文科大学卒業。テレビ局、衆議院議員公設秘書、ニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者などを経て、フリージャーナリストに。「官邸崩壊 安倍政権迷走の一年」「小泉の勝利 メディアの敗北」「田中真紀子の恩讐」など著書多数。
永田町を震撼させる気鋭の政治ジャーナリスト・上杉隆が政界に鋭く斬りこむ週刊コラム。週刊誌よりもホットで早いスクープ情報は、目が離せない。