大阪・西成のあいりん地区で、労働者が高齢化して仕事にあぶれ次々と生活保護を受ける実態が浮かんだ。酒浸り、認知症、孤独。安い労働力として集められ、日本経済を支えた人たちが厳しい生活に直面している。
北海道出身という男性(52)は阪神大震災の翌年の96年、あいりんに移った。復興作業で仕事が多いと聞いたためだ。それまでは東京で野宿や簡易宿泊所暮らしを送っていた。
だが仕事は次第に減り、野宿生活に逆戻りした。約2年半前に泥酔して転倒。腰を痛めて仕事はなくなり、生活保護を受け始めた。アルコール依存症で酒浸りの毎日だった。
男性は昨年1月、ケースワーカーに連れられて、あいりん地区にある共同住宅「シニアハウス陽(ひ)だまり」に入居した。「陽だまり」は民生委員の宮地泰子さんが00年9月、生活保護を受けるようになった元野宿生活者や労働者らのために設立した。
約100人が共同生活を送るが、アルコール依存症や認知症などで金銭管理の必要な入居者が3割以上に上るという。北海道出身の男性についても、二度と酒を買わないよう、宮地さんたちが生活保護費を管理している。
「陽だまり」には、孤立しがちな入居者の交流の場となるコミュニケーションルームがある。希望者を募り清掃活動に行くなど地域との交流も進める。
男性にはこうした交流がうれしい。アルコール依存症も徐々に克服しつつある。「誰かと話をするのが楽しい」と明るい表情だ。
宮地さんは「地方から集められた労働者たちには、もともと年金も社会保障もない。高齢化で生活保護が増えるのは当然で、生活指導も含めた支援が必要だ」と話している。【田中博子】
毎日新聞 2008年6月21日 大阪夕刊