北海道洞爺湖サミット(7月7~9日)を前に、札幌市中央区の「札幌駅前バスターミナル」が、施設の管理徹底を理由に事実上のホームレス締め出しを始めた。運営する札幌駅総合開発によると、3月に窃盗や放火事件があったためで「ホームレスいじめではない」と説明している。一方、支援団体からは「サミット絡みの過剰反応の可能性もあり、人権上問題だ」と指摘する声があり、波紋が広がっている。
ターミナルの待合所や階段に1日から「注意」と題し、札幌駅総合開発と札幌中央署の連名で寝泊まりや営業時間後の立ち入りを禁止する掲示が張り出された。同社は今後、警備員が巡回し、寝泊まりしないよう注意を促す方向で検討中だ。
市によると、市内のホームレスは1月現在109人。このうち、シャッターがなく夜間も出入りが自由なターミナルには20~30人が寝泊まりしている。同社は「公共性の高い施設なので、サミットを前に警戒を強化する必要がある」と強調する。ただ、今のところ強制排除は考えておらす「要請」にとどめるという。
4、5年前からターミナルで生活している道内出身の50代男性は「春ごろから警察官に職務質問される機会が増えた。ここは襲われる心配もないので、安心して眠れる唯一の場所。迷惑を掛けているのは分かっているが、締め出されると行き場がなくなる」と困惑している。
ホームレスの支援に取り組む札幌市の市民団体「労働と福祉を考える会」は影響を調査する方針。代表を務める木村武徳・北星学園大准教授は「道内のホームレスにとって、冬はバスターミナルのような場所が必要だ。今回の措置が他の施設にも波及するかどうか注視したい」と話す。
市内には無料で宿泊できる「救護施設」が4カ所(計12人収容)ある。市保護指導課は「完全に締め出された場合は、施設での受け入れを考える必要がある。当面は情報収集に努める」としている。
00年の九州・沖縄サミット前は、沖縄県内の自治体が「管理徹底」を理由に公園で寝泊まりするホームレスのテントなどを撤去。支援団体から「人権軽視」との批判も寄せられた。【吉井理記、写真も】
2008年6月13日