梅田北ヤード。貨物駅や線路がある西(左)側の地域が第2期開発区域=今年4月中旬、大阪市北区、本社ヘリから、伊藤恵里奈撮影
大阪最後の一等地と言われるJR貨物の梅田駅(梅田北ヤード)跡の再開発。その2期開発区域の使い道が、いまだ定まっていない。問題は中核施設で、経済界からは緑地案も浮かぶが、財政難の大阪府、市には期待しにくい。大きな商業施設も周囲はオーバーストア状態で抵抗は強い。議論に残された時間はあまりない。(編集委員・多賀谷克彦)
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毎朝4時22分、梅田駅に一番列車が到着する。前夜、東京・品川を出発した貨物列車だ。コンテナが下ろされ、トラックに積み替えられる。扱い量は年150万トンと全国有数、関西では最も多い貨物駅だ。高い塀に囲まれるが、約200人が働き、1日30本前後の貨物列車が発着する。
梅田駅は11年春にも、1874(明治7)年以来の歴史に幕を下ろす。機能は吹田貨物ターミナル(大阪府吹田市、摂津市)などに移される。87年の国鉄民営化時に決まった計画だ。いまは独立行政法人の鉄道・運輸機構が所有するが、その跡地をどうするかは、地元にとって長年の懸案だった。
大阪市が04年に作った基本計画に沿い、東側の1期先行開発区域では、ロボットなど先端技術の研究施設や、オフィス、住宅の建設の開発が進む。問題は、残る2期区域だ。基本計画に含まれるが、大ざっぱなゾーニングしか固まっていないのだ。
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「東京と同じ街では困る。ニューヨークやパリのように、出かける前からワクワクする都市にしたい」。5月14日、関西経済同友会が開いた梅田北ヤードに関する研究会。平日の昼にもかかわらず集まった関係者150人からは、こんな発言も出た。ただ、講師からも会場からも具体的なアイデアは一切出てこなかった。
基本計画によると、中核施設は先行区域と同じく「知的創造活動の拠点」とされ、大学、大学院のサテライトなどが想定されている。これが大阪市や経済界による具体案作りの場、「まちづくり推進協議会」のたたき台になっている。
関西経済連合会の下妻博会長は、緑地公園を提案する。だが、それだと採算性は期待できず、とても企業には手を出せない。大型の商業施設にしても、すでに梅田地区では百貨店などの増築計画が相次いでいる。
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協議会は近く、財界、自治体関係者らによる「企画委員会」を立ち上げ、年度内をめどに具体策づくりに入る。しかし、実は残された時間は少ない。
機構は、12年度までに旧国鉄の土地を処分する目標を掲げている。進み具合は国土交通省のチェックを受け、目標達成は必須だ。さらに、ここは容積率も低く、高層ビルなどを考えれば、容積率の緩和は不可欠。中身が決まらなければ、手続きも進まない。経済界からは「このままでは低層の居酒屋とパチンコ店しかできない」との声も漏れる。
先行区域でさえ、基本計画の公表から都市計画決定、土地の売却まで3年を要した。インフラ整備には国による公共事業も含まれる。逆算すれば「待ったなしの時期」にすでに入っている。
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〈梅田北ヤード開発〉 全体の広さ約24ヘクタールは阪神甲子園球場の敷地の約6倍。先行区域では、三菱地所とオリックス不動産がまとめ役となる企業連合が開発を担っている。
土地を持つ鉄道建設・運輸施設整備支援機構は、跡地の売却費用を旧国鉄職員の年金などの将来費用にあてる。旧国鉄からの土地の99%は売却された。残る約96ヘクタールのうち梅田駅は、武蔵野操車場(埼玉県吉川市)の31.6ヘクタールに次ぐ規模。資産価値では機構にとっても「残された一等地」だ。
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1987年 国鉄改革で梅田貨物駅を旧国鉄清算事業団に継承。その後、鉄道・運輸機構へ
2004年 大阪駅北地区まちづくり推進協議会設立
大阪駅北地区まちづくり基本計画公表
06年 先行開発区域開発業者募集開始
年内に開発業者決定
07年 開発業者への土地売却
08年 2期開発区域の中核施設の議論(予定)
13年3月 鉄道・運輸機構の中期計画終了