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【新世界事情】

キレる若者 

2008年5月28日

 どの国でも、雇用や生活が不安定になると、若者がささいな出来事に理性を失い、事件に巻き込まれる例が増えるようです。加害者の側にも、ゆがんだ社会の犠牲になっている面があるのかもしれません。

英国 ナイフ犯罪相次ぐ

 今月十二日の夕方。買い物客らで混雑するロンドンの繁華街、オックスフォード通りのハンバーガー店前で、二十二歳の男性がナイフで刺された。男性は蘇生(そせい)措置のかいなく死亡。警察は翌日、十八歳と十九歳の少年を逮捕した。飲み物をめぐるいさかいがきっかけだったとみられる。

 二十四日未明にはロンドン南東部のバーで十八歳の少年が刺殺される事件が発生。二十一歳の男が逮捕された。少年は年内公開の「ハリー・ポッター」最新作に出演した俳優で、衝撃が広がった。

 英国では連日、若者が加害者や被害者になり、紙面をにぎわしている。ロンドンだけで十代の犠牲者は今年既に十四人。「犯罪を許さない社会」を掲げるジョンソン市長は、地下鉄やバスでの飲酒禁止を決定。「オックスフォード通り殺人」の翌日には、刃物を検知する金属探知機を導入し、警察官が不審と判断すれば特別な理由なく所持品を調べられる取り締まりを始めた。

 半面、強権措置には「恐怖感が植え付けられ、ますます刃物への依存が高まるだけ」と指摘する声も強い。

 労働党政権は過去十年、若者の犯罪軽減に取り組んできた。だが、キングス・カレッジ刑事司法研究所の報告書は「費用の大半は検挙と保護施設に使われた」と指摘。執筆したエンバー・ソロモン氏は「教育や雇用の充実など予防に力点を移すべきだ」と訴えている。(ロンドン・池田千晶)

夜の繁華街で仲間と過ごす若者たち。タイでは少年犯罪が増加傾向にある=バンコク市内で

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タイ 『マイペンライ』精神はどこへ…

 「大丈夫」「気にしないでね」といった意味合いで、タイ国民はよく「マイペンライ」と口にするが、だからといって、ことのほか寛容なわけでもなさそうだ。最近も、ささいなことから若者による惨事が起きた。

 中部ラヨーン県のコンビニ駐車場で四月、バイクで接触した男二人が口論となった。別れ際「殺すぞ」と捨てぜりふをはかれた十九歳は、腹の虫がおさまらず、店に引き返して逆に相手を射殺した。

 バンコクのコンビニでは昨秋、十代女性がレジ横のポットで熱湯を注いだカップめんを居合わせた女性客の顔にぶちまけ、大やけどを負わせた。その理由は「目つきが気にくわなかった」から。

 同じ時期、バンコクの飲食店内で、十代男性が足を踏まれて腹を立て、相手の男をナイフで刺殺している。

 少年犯罪を担当するタイ観察保護センターによると、昨年同センターが受理した少年犯罪件数は五万千百二十八件。強盗や窃盗、覚せい剤所持が増加傾向にある。

 こうした少年犯罪を誘発していたのが、今年四月にアユタヤ警察に拳銃不法所持容疑で逮捕された二十二歳の男女だ。金に困っていそうな地元少年らに拳銃を貸し出し、少年らが犯行で得た金から賃貸料をせしめていたという。それこそ、マイペンライで済まない話だ。(バンコク・林浩樹、写真も)

ロシア “愛国の炎”で猟奇殺人

 ロシアの小都市で起きた若者による異様な殺人事件が、社会に衝撃を与えている。事件が起きたのは、モスクワから北東約150キロ、ウラジミル州のコリチューギノ。

 市の中心部には大祖国戦争(第二次世界大戦)の戦死者をまつる「永遠の炎」がある。大戦で約2000万人が死亡したロシア(旧ソ連)では、中規模以上のどの都市にも設置されている神聖な場所だ。

 地元報道によると1月2日未明、工場労働者デニソフさん(25)が「永遠の炎」の前に差し掛かると、15歳から20歳までの男4人がビールを飲みながら雑談をしていた。デニソフさんは「なぜここで酒を飲むのかね」と尋ねた。すると4人はビール瓶でいきなりデニソフさんの頭を殴りつけ、気を失ったデニソフさんの頭を燃えさかる炎に突っ込んだ。

 ほどなくして警備員が警察に通報。4人は逮捕され、取り調べで焼殺の事実を認めたが、明確な動機は明かしていないという。検察当局者は「若者だから無期懲役の可能性は低い。懲役8−20年程度だ」と予測する。

 暴力事件は珍しくないロシアでも、愛国主義を象徴する場所での猟奇殺人はほとんど例がなく、市民の苦悩も深い。

 ロシアでは新婚夫婦が無名戦士の墓に花束をささげる習慣があるが、同市で「永遠の炎」を訪れる新婚夫婦はもういない。 (モスクワ・常盤伸)

18歳の元生徒が乱入した「ショル兄妹実科学校」=ドイツ西部エムスデッテンで

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ドイツ 『自分は負け組』学校に恨み

 ドイツ西部エムスデッテン。二〇〇六年十一月二十日、人口三万五千人ほどの町で起きた学校乱射事件に独社会は揺れた。

 事件があったのは、ナチス政権に抵抗して死刑にされたショル兄妹の名を冠した実科学校。卒業時の学年は日本の中学に相当し、卒業後は専門学校に進む者が多い。

 この日、授業開始直後の午前九時半、ガスマスク姿の男が校舎に侵入。銃を乱射し、手製の爆弾を投げて生徒や教師七人にけがを負わせた。警官も煙にまかれて十六人が病院送りに。警察の特殊部隊が踏み込んだ時には、男は校内で口の中を撃ち抜き自殺していた。

 犯人は前年の卒業生で十八歳だった。インターネット上に男が書き込んだ「遺書」には学校への恨みがつづられていた。「学校で教わったのは自分は負け組だということだけ」「仕返ししてやる。みんな死ね」。男はいじめに遭い、二回も留年していた。

 ネット上には、銃を手にポーズを取る本人の動画も。男は暴力ゲームのマニアで、殺傷力の高い銃を所持していたとして事件翌日、裁判所に出頭する予定だった。

 事件は暴力ゲームの規制について、あらためて議論をもたらしたが、具体策にはつながらなかった。事件当日、救護に当たった聖マリア病院のゾンスマンさんは「急きょ全手術室を空けて対応しました。二度とこんな事件には遭いたくありません」と話していた。(ドイツ西部エムスデッテンで、三浦耕喜、写真も)

 

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