記者ら三人による株式インサイダー取引の責任をとりNHKの橋本元一会長が辞意を表明した。自民党からは全理事の辞任要求が出された。報道機関としての自覚の甘さが政治介入を許している。
「就業中に携帯電話を使って株取引をするとは法律以前の内部管理の問題だ」「会長だけではなく理事全員が辞表を出すべきだ」
二十二日開かれた自民党の電気通信調査会で、橋本氏は出席した同党の国会議員から次々に責任を問い詰められた。
橋本氏は会長の権限である内部人事まで口出しされても、答えは「甘かったと言わざるをえない」。会長が辞意を表明、理事二人も辞任し、政治家の介入まで許しては、報道機関としての体をなしていると言い難い。異常事態というべきである。
内部システムの情報を利用して株を購入、売却益を得たというもので、新たに二人が勤務中に購入し五百人以上の報道担当職員が広く株取引していた実態も明らかになった。
橋本氏は事態の深刻さを軽視した、という批判がNHK内部にもある。信頼を失って再び受信料の不払いを招いてはという、ためらいが後手の対応になったのだろうか。
安倍晋三前首相はNHKの最高意思決定機関である経営委員会の委員長に自らの人脈に連なる富士フイルムホールディングスの古森重隆社長を送りこみ、その古森氏は二十四日で任期切れの橋本氏の後任に、同じ経済人の福地茂雄アサヒビール相談役を指名した。菅義偉前総務相は強引ともいえる手法で、ラジオ国際放送で拉致問題を重点的に扱うようNHKに迫り、摩擦を起こしている。
法令順守の軽視というワキの甘さが政治の側につけいる余地を与えたといっても過言ではあるまい。橋本氏の前任、海老沢勝二氏も不祥事を機に会長ポストから去っており、二代続けての引責辞任である。謙虚さを失った組織は何とも危うい。
一九八九年以降続くNHK出身者の会長昇格が二十年足らずで途切れる結末となった事実を重く受けとめるべきだ。間もなく会長は福地氏に引き継がれ、経営委員長も現場のトップも経済人という異様な陣容に替わる。政治からの圧力に抗しきれるのか気がかりだ。
後手後手の対応が報道機関としての中立性や独立性を自ら狭めてしまうことに、NHKはもっと敏感であるべきだ。報道機関は取材内容を報道目的だけに使う。取材はそうした信頼が成り立ってこそ可能になり、広く国民の「知る権利」に応えられる。この当然の覚悟を揺るぎないものにしなければ組織再生は難しい。
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